劇場公開日 2016年9月17日

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「【普通に生きる/死んだように生きる/生きる】」オーバー・フェンス ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【普通に生きる/死んだように生きる/生きる】

2021年10月14日
iPhoneアプリから投稿

人は知らず知らずのうちに、大切な人も傷つけてしまっているのだ。

仕事が好きだったわけじゃない。

普通に働き、普通に結婚し、子供が出来て、普通の人間だと思っていた。

だが、いつの間にか、人を思いやる気持ちを忘れ、身近な人をひどく傷つける。

現代社会に、こんな人は溢れているのではないのか。

函館三部作の最期、この「オーバー・フェンス」で感じられる肌感は、ざらついた感触だ。

自分の想いだけが口からついて出て、周りの人を傷つけてしまう......そう、土埃がまとわりついているのに、気が付かないまま、人と接触しているようなざらついた感じだ。

職業訓練校で年長の学生が、指導員に向かって言う「学校の外には、お前が考えているより色んな人間がいるんだ」とは、いつの間にか、他者を傷つけたり、理解しないことが当たり前のようになった社会への皮肉だ。

”普通に生きてきたと思っていた”白岩

”死んだように生きてきたと言う”聡

白岩は、聡とぶつかり合いながら、聡を理解しようとし、そして、別れた妻の想いも理解しようとしていたのだ。

元気や優しさを取り戻していた元妻。

妻からの決別。

白岩が聡に向かって言う。

「俺はぶっ壊す方だから、壊れているお前より酷いよな」

だが、ここから再び始まるのだ。

省みることを怠ったが、それなりに一所懸命生きてきたのだ。

普通は、失敗や挫折がないことではない。

失敗や挫折が普通であり、それを受け入れられる社会であって欲しい。

グランドの土埃にまみれながらダチョウは求愛のダンスを踊り、打球は土埃をつんざいて飛んでいく。

ワンコ