劇場公開日 2017年2月24日

ラ・ラ・ランド : インタビュー

2017年2月23日更新

D・チャゼル監督×R・ゴズリング、ミュージカル映画を復活させた2人が見せた“夢”

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夢を追う人、現実を受け入れた人、そんなすべての人々とロサンゼルス・ハリウッドへの究極のラブレターが完成した。夢と現実が交錯する「ラ・ラ・ランド」で、ミュージカル映画をリアリズムとともに現代的に復活させた若き才能デイミアン・チャゼル監督と、繊細かつ情熱的な演技で世界中をとりこにしたライアン・ゴズリングが、今作への思いを語った。(取材・文/編集部、写真/依田佳子)

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映画は、ハリウッドで女優になることを夢見るミア(エマ・ストーン)と、売れないジャズピアニストのセバスチャン(ゴズリング)の恋と人生を、歌とダンスを交えて彩り豊かに描いた。劇中で、セバスチャンがミアに「ジャズは死につつある」と訴える印象的なシーンがある。現在のミュージカル映画は、ジャズと同じく“死につつある”ジャンルだ。チャゼル監督が「資金集めをするときには、ミュージカルやジャズは、映画の要素として人気がないということを嫌というほど思い知らされたし、興行成績も見こめないと何度も言われた」と明かすように、当初このリスキーな組み合わせに大金を出資するスタジオはなかなか現れなかった。

しかし、蓋を開けてみれば、第74回ゴールデングローブ賞で史上初(映画部門)の最多7部門に輝き、第41回トロント国際映画祭では最高賞にあたる観客賞を獲得。第82回ニューヨーク映画批評家協会賞、第37回ボストン映画批評家協会賞でも作品賞に選ばれる快進撃を続け、2月27日(日本時間)に発表される第89回アカデミー賞には史上最多タイの14ノミネートを果たしている。

チャゼル監督は、「普段は目にしないものでも、面白いものがあると気づかせることは映画の役目だと思う。この映画はミュージカルが大嫌いとか、ジャズが聞こえてくるとラジオを止めてしまうような人にこそ見てもらいたい。こういうのもありなんだと思ってほしいんです」と映画監督としての使命感をのぞかせる。

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その言葉を具現化したのが、セバスチャンとミアが出会うオープニングシーンと、初めて2人きりで踊るシーンだ。オープニングは、大渋滞しているロサンゼルスの高速道路で、キャストが歌って踊る約6分間をワンカットで撮影。大勢で息のそろったステップを披露し、往年のミュージカルを彷彿させたかと思えば、ヒップホップやブレイクといった様々なジャンルのダンスを挿入して現代に引き戻すなど、とにかく目が離せない。スニーカーの靴底が自由にアスファルトを蹴る音が、観客を一気に独自の世界に引き込んでいく。

2人が夜景を背に踊るシーンでは、ハイヒールを履いていたミアが、バッグからダンスシューズを取り出し、息の合った動きのなかで堂々と履き替えてしまう。“突然歌って踊り出す”という、ミュージカルのアートフォームへの苦手意識を逆手にとる演出には脱帽だ。今作で、歌とダンスが物語の延長線上に自然と存在するのは、そんな巧みな演出と、主演2人の演技力の賜物だろう。

恋に落ちたミアとセバスチャンは互いの夢を応援し合うが、セバスチャンが生活費のために加入したバンドが成功するにつれ、気持ちがすれ違い始める。さらに、女優として大きな挫折を味わったミアは、夢を諦めると言い出す。ハリウッドで輝かしい成功を掴んだゴズリングとチャゼル監督も、ミアのように自らの才能を信じられないことがあるという。

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ゴズリングは、「落ち込んだ経験はたくさんあるし、その度にたくさんの人に助けられてきた。結局のところ、運なんだ。才能があるのに、運に恵まれない人がたくさんいる。不公平だよね」と目を伏せる。そんな理不尽な世界での成功の鍵は「努力と忍耐」だという。ハリウッドスターの回答としては随分とリアルだが、プロ意識の高さを感じさせる。

「自分を高め続けることで、運を掴めるポジションにたどり着けると思うんだ」。今作のためにピアノを「3カ月間一心不乱に練習」し、手元のクローズアップさえ吹き替えなしで演じきったゴズリングが言うのだから、間違いない。

今作の構想をハーバード大学在学中からあたため、ようやく実現させたチャゼル監督も、「やっぱりだめかなと思うときがあったよ」と本音を吐露する。「そういうときは、自信を取り戻させてくれるキーパーソンがいてほしい。みんなそうやってまた進んでいくんじゃないかな。ミアが『私には才能がないかもしれない』と言う場面は、もっともパーソナルなシーンのひとつ。僕自身、自信満々でエゴにまみれている自分と、まったく自信がない自分の間を行ったり来たりしているからね(笑)」

そんなチャゼル監督の言葉を聞いていたゴズリングは、「クリエイティブな人にありがちなことだよね。経験することのほとんどが失敗なんだ!」と笑う。「成功したという気分にはあまりならないし、そういう実感は得がたいもの。たくさんの失敗のなかに少しの成功がある方が、正解なんだと思う」

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「長い間、自分が見たい映画を作ってきた」というゴズリングは、「今作で久しぶりに観客がどんな映画体験をするのかを意識したけれど、それと同時に、僕たちが見たい映画を作ることもできたんだ。デイミアンはそのバランスを取るのがとても上手で、自分の夢を実現しながらも、観客が望む形に持っていける。それってすごくワクワクするよ」と嬉しそうにほほ笑む。

「僕たちにとっては、この映画を作れただけで大勝利。撮影が終わったときには、『やってやったぞ!』ってみんなでハイタッチしたよ。もしもこの映画が誰にも好かれなくても、僕たちは誇りに思っているからそれでいいと思ったんだ。でも公開したら、観客の反応があって、何度も繰り返し見たという人もいる。この映画の世界観が受け入れられたことで、大勢の人がこんな映画や、こんなリスクをとる監督を求めていると感じられて、とても励みになっているよ」

ゴズリングから絶賛され、照れくさそうにうつむくチャゼル監督。そんな穏やかな表情の内に秘められた映画への思いはとてつもなく熱い。

「大スクリーンで見なきゃいけない映画を作りたいんです。自分や周囲の人が経験した個人的で小さな物語を、大きく広げて大スクリーン向けの叙事的なものに仕上げたい。何かを暴露してさらすような作品になるかもしれないけれど、それはもっともエキサイティングなアートにもなり得るからね」

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