劇場公開日 2015年5月1日

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映画 ビリギャル : インタビュー

2015年4月30日更新
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有村架純を導いた、信じて努力する強い意志

取材のたびに多くのインタビュアーが有村架純に「忙しいですね」と言葉を掛ける。忙しいのは紛れもない事実。次々と新しい映画やドラマ、CMの撮影が入り、それに伴う取材やプロモーションが押し寄せる。だが、有村が忙しさや時間のなさを理由に、仕事において妥協するようなことは絶対にない。可能な限りのエネルギーを、ただ目の前の作品のために注ぐ。そして、そんな有村を“映画の神様”も絶対に見捨てることはない。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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映画「ビリギャル」のクランクイン前夜。「それこそ、あと数時間で現場にという時でした」。有村は、同作で演じる金髪ギャル・さやかという役がつかめずにいた。「本当に、泣きそうになるくらい分からなくて、『もう考えたくない。逃げちゃいたい!』と思うくらい分からなくて、でも、何かが見つけられそうな気はしてたんです」。あきらめきれず、ギリギリまで台本を読み漁った。「“ギャル”という言葉も頭の中を邪魔していたし、(金髪や派手な外見、ギャル語など)取り入れなきゃいけない要素もあって、でも『そんなこと、あまり考えすぎなくてもいい』と思う自分もいたり、いろんな自分が頭の中をグルグルと回って。そうじゃない。外見ばかり気にして肉付けしようとしても、軸がしっかりしていなきゃフワフワしたまま終わっちゃうと思ったんです」。

そんな時に、ふと降りてきた。いや、そんな受動的なものではない。ギリギリまであがいた末に、つかみとった。「さやかのエネルギーになっている部分はどこなんだろう? と探したら、『楽しい』と思えることを楽しんでやっている、そのスタンスなんだなって気づいたんです。友達といる時、坪田先生(伊藤淳史)といる時、あーちゃん(母親/吉田羊)としゃべっている時――そこで、いろいろ見えてきたものがあって、ギャル語もセリフも全てが素直に頭の中に入って来たんです」。

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65万部を突破したノンフィクション「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話」を映画化した本作。小4レベルの学力だったギャル高校生・さやかが、ひとりの塾講師との出会いをきっかけに驚くべき成長を遂げ、タイトル通りに現役で慶応大学に合格するまでを描く。撮影前日にさやか像を手にして現場に入った有村だったが、クランクイン後に難しさを感じたのがコミカルなシーン。「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読み、日本地図を描かせればなぜか島がひとつという学力は笑いを誘うが、あくまでさやかは真剣そのもの。「“普通”にやることで笑いを引き出すことの難しさを感じた」と振り返る。

「台本を読んでもクスッと笑っちゃうんですが、それを自分で狙おうとするとダメなんですよね。どうやって、さやかのおバカっぽさをナチュラルに表現するかはすごく難しかったです。実際、この映画で笑いを取ろうということは全く意識していないんですが、いかに自然にできるか……、そこは悩みました。いま撮影に入ってるドラマ(『ようこそ、わが家へ』)も、サスペンスなのに家族周りのシーンはコメディのようで、やりながらいろいろ考えています(苦笑)」。

だが、そうやって「考える」ことに費やせる時間は決して多くはない。ある作品から次の作品へと気持ちを切り替えるための時間も限られている。同じ作品の中でさえも、例えば本作でも、カラオケボックスでの撮影で、高2のシーンと、1年余りを経た高3のシーンが同じ日に撮影されるなど、常に時間との戦いの連続である。有村は時間と“戦う”のではなく、与えられた時間に向き合い、やるべきことを選択していく。

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「時間がないのではなく、時間は作れると考えるようにしてます。時間は平等で、誰にでも24時間があるので、ほんの少しの時間で仮眠するのを選ぶのも大事なことだし、ちょっとの時間で人と話したり、雑誌や映画を見たり。あまり『この時間でこうして、次は…』と考えているわけでもないんですが、ただ、どんな“ちょっと”の時間でも無駄ではなくて、そこでふと息を抜ける瞬間があるなら、それは自分にとってはすごく重要な1分だったりする。少しずつ、そういう時間を積み重ねて過ごしているという感じです」。

有村の発する言葉から感じられるのは、自分自身の選択に対する強い意志。中学3年生で「女優になる」という夢を抱き、自ら事務所のオーディションを受けて、女優という仕事を始めた彼女の生きる決意がひと言、ひと言からにじみ出ているように感じられる。本作でも、さやかが慶應受験のためにひとり東京へと向かう姿、そして卒業後、親元を離れ、寂しさと期待を胸に新幹線で上京するさまが描かれるが、有村自身、幾度となくオーディションや仕事で地元と東京を往復し、18歳で本格的に上京した。

「さみしさはありましたけど、ただ楽しみの方が大きかったですね。ワクワクしていました。早く東京に行きたいってずっと思っていたので。この先への不安は……なかったです! 『この先、こうなって、この年齢の時にはこうしていて…』とか勝手に将来をイメージしていて(笑)、楽しみでしかなかったです」。その後の目覚ましい活躍ぶりは記すまでもないが、周囲の喧騒や熱狂をよそに、当人は意外なほどの落ち着きをもって、現在の自分が置かれた状況を受け止めている。改めて、この数年で次々と新たな作品に身を投じる中で、自分自身の内面に関して最も変化したところはどんな部分だろうか。

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「仕事に対する覚悟、役者としてやっていくという覚悟を、改めて強く持つようになったかなと思います。20歳を迎えたことで、19歳とたった1歳しか違わないし、そこで急に変わるわけもないんですが、ひとりの大人として、責任を持って仕事をしなきゃいけないということを強く意識しています」。やはりここでも、あくまでも能動的に、意識的にそうあろうとしていることが感じられる。さらに女優としての自らの成長や変化についてはこう語る。

「正直、お芝居が上手くなっているかと聞かれても、自分では全然分かんないです(笑)。ただ、悩む場所が少しずつ変わってきているなと思いますね。それから作品の見方、台本の読み方、役を作り上げる時の考え方もちょっとずつ変化していて、それは自分でも面白いなって感じてます」。

最後に、故郷を離れて上京する際に抱いていたという将来のイメージとその後の現実の“ずれ”の有無を尋ねると「予想した未来に近づいています」という答えが笑顔と共に帰ってきた。やはり、彼女にとっては予定通りなのだ。映画の中で坪田はさやかに「Where there is a will, there is a way.(意志あるところに道は開ける)」という言葉を贈る。信じて努力する強い意志こそが、有村架純をここに導いた。

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