劇場公開日 2015年12月5日

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「戦争、国家の罪に人として抵抗した人」杉原千畝 スギハラチウネ xmasrose3105さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5戦争、国家の罪に人として抵抗した人

2021年4月1日
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命のビザを発行した、博愛主義の人というイメージしかありませんでしたが、この映画を観てよかった。

どのくらいの信憑性かは映画ですのでわかりませんが、戦後外務省を追われて、小さな商社にお勤めだったという事実。日本のシンドラーと言われたのは、戦後随分経ってからのこと。やはり誰かが、杉原千畝という現実に存在した人物の事実に光をあて、ひとつの生き様としてみんなに伝えたいと思ったから、ということは言えると思います。2000人以上にビザを発行し、現在その子孫たち4万人、とエンドロールに出てきます。

当局というか、体制はこういう人物を潰そうとする。命がけの人間らしい仕事や、本物のリーダーシップを持つ人は、なぜいつの時代も打ち捨てられるのか。わたしは杉原のような方がもっともっと何人も出てきて欲しいと思いました。潰されても潰されても。杉原は「信じる人」です。時々同じような心のDNAを持つ人同士が、感化され、good manとして期せずして覚醒する。その細い細いネットワークをどうにか繋いで、戦争というものに抵抗した。
戦時下ですから、一つの選択が、生死を五分五分で分けていく。恐ろしいです。無差別に殺されるやり口が出てきますが、まるでゲームのように、面白がって命を奪う。これが人間です。映画とわかっているのに、強い憤りを覚えました。何をどう言っても、究極の事態の時、その人の本性があらわれます。

真実が見えている人は、いつの時代にもいます。
しかし悲しいかな、見えているのに、そして最善を尽くすのに、最悪の方へ流れていくのを止められない。
それは体制という大義、ならぬ大悪に、みんなが盲目的に従っているからです。
傲慢。過信。アホです。そういう人が権力を手にしてしまう。
小日向さん演じる上司の閣下と杉原が、ジェントルに礼儀を守りつつ、激しく猛烈に意見をぶつけ合うシーン。
自分が人として、信じる道を持っているか。
本当に大事なこと、それを貫けるひとは、無名でもヒーローです。宝です。理解者の家族がいてまだ杉原は恵まれていた(協力してくれた外国人の方たちはみな家族を失っていました)。
そのあとまた杉原はとばされますが、むしろ本音が言えたいい時代かも。今の時代、こういう熱さはなくなった気がします。

戦争って本当に嫌だ。馬鹿馬鹿しい。強く強く、そう思いました。組織の命令以前に、人として、どうすべきか。たとえ杉原になれなくても、その何万分の一でもいいから思いと行動を見習おうと思います。
そう思えただけで、このストーリーを映画として遺す意味があると思いました。

xmasrose3105