劇場公開日 2015年5月16日

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Zアイランド : インタビュー

2015年5月14日更新
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哀川翔、品川ヒロシ監督と疾走した芸能生活30周年記念作という通過点

節目の年などをよく通過点と表現する。だが、哀川翔ほどその言葉通りに走り続けている役者はいないだろう。芸能生活30周年記念の主演映画「Zアイランド」でもアクション、コメディ、ホームドラマ、そして感動と映画のだいご味をすべて詰め込んだ群像活劇の核としてきつ立。監督を託された品川ヒロシはその魅力を最大限に引き出し、共演の俳優、芸人、アーティストら個性あふれる面々もこぞって神輿を担いだ。哀川の通過点はまさにスピードを緩めない疾走感にあふれた“祭り”となった。(取材・文/鈴木元)

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「そういやあ俺、来年30周年なんだよね。なんか撮ってくんない」

このひと言がすべての始まりだった。哀川は品川の前作「サンブンノイチ」に1シーンだけ出演。一昨年の撮影中の空き時間、何げなく放たれた言葉に品川は驚きながらも10年ほど前から抱いていた「やくざVSゾンビ」の構想を提示する。

品川「翔さんに話をもらった時にカチンと音がするというか、それじゃあこれだと思って言ってみたんです。それを翔さんに面白いねって言っていただいたので脚本を書き始めました」
 哀川「感動のなんとかとか、ヒューマンなものをって意見もあったらしいけれど、30周年記念なんて大義名分だから。俺なんかは、面白い映画ができればいい。俺たちがやるのに、飾ってんじゃねえよって映画やったってしようがないでしょ。だから『やくざVSゾンビ』に決まってんだろって押し切っちゃった」

やくざの元組長・宗形が、面倒を見ていた服役中の弟分の娘が出所の日に家出。向かった先は銭荷島と分かるが、そこでは謎の感染者Zが増殖。一方、かつての抗争相手・竹下組の面々も持ち逃げされたクスリの行方を追って銭荷島を目指していた。

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“三つどもえ”の大激闘となるわけだが、アクション満載、ギャグもてんこ盛り、さらには鶴見辰吾扮する弟分の家族の熱演が涙を誘う。当然、その中心にいるのはゾンビではなく哀川。品川は「格好いいだけじゃない、素の翔さんを見せたい」と語っていた。

品川「翔さんの周りで全員にいろんなことが起きるスタイルにしたかった。恐れ多いですけれど、翔さんってその時その時にピッタリの役がくる。今回の宗形も元極道で今は優しくておおらかで朗らかなんだけれど、怒ったら絶対に怖いっていうオーラがある。それがもう、宗形にピッタリだった」
 哀川「ビックリしたよ。本当にきっちり書き込まれている。そこでなぜゾンビなのかって意味合いをつけるのは難しいんだけれど、ちゃんと意味合いを考えたゾンビになっているし、ゾンビ映画ではなく俺の映画にゾンビが出てくれたって感じになっている」

とりわけ哀川が絶賛したのは、鶴見、窪塚洋介、風間俊介らと一緒にZの襲撃から逃げ込んだ一室で、警察に通報するシーン。代わる代わる受話器を握るが、誰も「ゾンビ」という単語を使わずに現状を的確に伝えることができず、その度に哀川が小言を繰り返す。

哀川「あそこの畳みかける芝居のスタンスが品川の持ち味であって、誰かマネしようとしてもできない彼の見せ場。ウチの息子なんか『パパ、これ漫才だよ。できんの?』だって。おまえ誰に言ってんのって感じだよ(笑)。俺、100何十本やってきて別に不得意と思っていないし、間に鈍いわけでもないからね。うまくやるに決まってんでしょみたいなところがある。でも、品川も品川でものすごく圧力かけてきたんだよね」

全編にちりばめられたさまざまなアクションに関しては全幅の信頼を置き、銃撃戦、格闘、立ち回りと多彩。だが、クライマックスのカーチェイス、走行するトラックの荷台での木村祐一との決闘だけはリハーサルなしの一発勝負を進言した。

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「一番怖いのは、段取りになっちゃうことで、リハーサルをやっても本番は変わるから。それほど気持ち悪いものはないし、下手をするとケガするからやめた方がいいって。それは俺の経験。俺みたいに心臓が強けりゃいいけれど、人ってやっぱり萎縮しちゃう。のびのびやってもらってなんぼだから。キム兄(木村)もバリバリ緊迫感があったから、俺もそこに乗っかっていけたね」

品川がモニターを見て「『西部警察』みたい」と満足げだった一連のシーンをはじめ、感動は鶴見、鈴木砂羽、山本舞香の家族、マジメなボケは風間俊介や般若、そしてホラーと笑いの両方を一手に担う宮川大輔ら芸人が適材適所で担う、ぜいたく極まりない群像劇に集約された。

品川「やっぱり好きなんですね。ごった煮というか、ポップコーンを食べながら見るエンタテインメントが。キャスティングは完璧だし、とにかくすごく好きな映画が撮れたなって思いましたね」
 哀川「人の操り方がうまいよね。さすが漫才師。それは持って生まれたもの。探求心もすごいし、興味の度合い、集中力が違う感じがする」

30周年記念映画と聞くと、高橋伴明をはじめ黒沢清、三池崇史ら哀川のキャリアに深く関わってきた監督が撮るものと思っていた。だがそれはあくまで縁だと言い切る。

「品川にやってもらいたいって思っていたわけではなくて、30周年だって思った時にそこに品川がいたんだもん。物事って、できるものは本当にすんなり進んで、大丈夫なはずなのに何で進まないのってこともある。今回は本当にトントントントンっていったから、やっぱり品川で正解だったって感じている」

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路上パフォーマンス集団「一世風靡セピア」のメンバーとして「前略、道の上より」でデビューから丸30年。数々の縁の蓄積が、今の哀川を形成している。

「運がいいのもあるし、巡り合わせ、出会った人も良かった。そこは感謝だな。特にいい人にピックアップされた感じがする。本当、30年の積み重ねだと思うし、俺が経験したことがきっちり出ている。30年歩いて来て、そんなに間違っていないしなあって。それで今が一番いいもんね」

だが、まだまだ歩みを緩めるつもりはない。逆にそのスピードはさらに加速しそうな勢いだ。50歳を過ぎてからアクション作品が続き、しっかり対応できる体力も実証した。

「確かに全盛期のキレはないけれど、映像の中で耐えられるくらいの動きはまだまだできる。ちょっとやったら戻りそうじゃんみたいな感触もあった。極端に言えば、2時間あったらバク宙できんだろう、くらいの感じはあるわけ。前は60歳くらいで物事考えてと思っていたけれど、考えるのやめたわ。興味のあることには挑戦しておかないとつまらないし、あまり後ろを向いてもしようがないから、とりあえず走れるところまで走ってみるわ」

31年目以降の次なる一手は何か。深い縁で結ばれた品川と新たな“ネタ”で再び、ということも十分にあり得る。またひとつ楽しみが増えたことだけは間違いない。

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