劇場公開日 2014年12月27日

海月姫 : インタビュー

2014年12月26日更新

能年玲奈×篠原ともえ、オタク役ではじけた2人の意外な共通点

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「じぇじぇじぇ」「あまロス症候群」などの流行語を生み、大ブームを巻き起こしたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」が終了して早くも1年3カ月。女優・能年玲奈は、主演最新作「海月姫」でコメディエンヌとしての才能にさらなる磨きをかけた。一方、弱冠16歳で“シノラー”ブームを巻き起こし、現在は衣装デザイナーや女優と幅広く活動する篠原ともえもまた、本作の“枯れ専”オタク役で新境地を見せている。真剣なあまり真っ直ぐに突っ走る能年、そんな能年を優しく見守る篠原。何の接点もなさそうなこの2人、実は大の仲良しで、ともにオタクというハマリ役で距離を縮めたのだった。(取材・文・写真/山崎佐保子

クラゲを愛するオタク女子・月海(能年)が、“男を必要としない人生”を目指すオタク女子集団“尼~ず”とともに繰り広げるドタバタを描いた本作。“尼~ず”メンバーには鉄道オタク(池脇千鶴)、三国志オタク(太田莉菜)、和物オタク(馬場園梓)、枯れ専(篠原)とそれぞれ嗜好は異なるものの、オタクという属性は共通していて、そんな彼女たちの心の拠り所が男子禁制のボロアパート「天水館」なのだ。

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「あまちゃん」のコミカルな演技でお茶の間の人気者となった能年だが、「ホットロード」(三木孝浩監督)ではワケあり不良少女、今作では三つ編みにメガネのオタク系“非モテ”女子と、大きな振り幅を見せる。能年は、「オタク役はめちゃくちゃ楽しかったです。月海は『自分はダメなやつ!』って思い込んでいるナイーブな部分があるのに、実はすごくパワフル。月海の集中するとガーっと暴走してしまう感じがとても面白かったし、そのギャップがすごく楽しかったです」と役柄を満喫したようだ。

原作は、テレビアニメ化もされた東村アキコの同名人気コミック。漫画の世界からそのまま飛び出してきたかのような、女優陣による“尼~ず”のなりきりぶりも注目を集めている。能年は、「衣装に助けられたことろは大きいですね。衣装チェンジもスウェットからスウェットに着替えるみたいな(笑)。だから月海がおめかしするシーンでは、『わ、スカートが短い!』って役とリンクする部分も大きくて、私自身もビシッとなりました」。それは篠原も同じだったそうで、「私も髪型や洋服にすごく助けられました。あれは私たちの“戦闘服”のような感じ。衣装を身につけると、背中も曲がり口数も少なくなり、原作の世界に連れて行ってもらえる感覚がありました」という。

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「天水館」消滅の危機を迎えた“尼~ず”は、なけなしの勇気を振り絞り、大切なものを守るため立ち上がる。能年は、「私もみんなで何かを作るのが好き。中学生の時にバンドを組んでいたのですが、映画作りもその時の感覚に似ているんです。今回は、それが“尼~ず”だからこそのファッションショーで、一点だけに集中力を発揮する人たちだからこそやり遂げられたもの。彼女たちならではの精神だなって感じがして、とても素敵だと思いました」とすっかり映画の世界観に入り込んでいた。自称・裁縫オタクの篠原も、「“尼~ず”が力を合わせて輝いていく瞬間は、新しいヒーローたちが誕生するような感じで美しい姿だなと思いました。この作品を通じて、ものづくりの楽しさも感じてもらえたらうれしいですね」。

かつて暗いイメージがつきまとっていた“オタク”という言葉も、今では海外から見たクールな日本文化を象徴する言葉となっている。それまでの典型的な“かわいい”に属さず、己独自のかわいさを追求し“シノラー”旋風を巻き起こした篠原こそ、オタク文化の先駆者的存在といえるかもしれない。篠原は、「オタクっていうとちょっと暗いイメージがあるかもしれないけど、オタクって夢中なことや没頭していることの“擬人化”だと思います。それくらいハマれるものがあるって幸せなことですよね」とほほ笑んだ。

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月海に密かな恋心を寄せる女装美男子・蔵之介役には、若手実力派の菅田将暉が扮した。能年は、同い年の菅田とも刺激し合ったようで、「映画では初共演なのですが、私と演技の方向性が全く違い、興味深く観察させてもらいました。ご一緒して楽しませていただいた感じです。“演技法”が違うんです!」と、まるで月海がクラゲのことを語るように熱弁をふるう。

そんな能年の姿が、自然と月海にリンクする。ずっと近くで現場の能年を見てきた篠原も、「能年ちゃんか月海なのか、一瞬分からない時もあって。試写の時に能年ちゃんの隣で見ていたら、能年ちゃんが中盤くらいから鼻をすすっていたんです。『もう泣いてるの?』って思ったら、なんと『鼻炎なんです』って(笑)。もうキャラクターが出来上がってるなと思いましたね」と能年らしい“天然”なエピソードも。しかし、「映画でも前半の内気な感じから、ある時パーンと弾けて、後半に力強い月海が出てくる。見た目は“尼~ず”だけど、能年ちゃんの瞳の中にそれが映し出されていると思った。まさに能年ちゃんの中の月海を見た感じ。彼女の心が動いている様子を、大きなスクリーンの中の彼女の瞳を通して感じることができるんです」。

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そんな2人が仲良くなったキッカケのひとつに、篠原を中心に発足した“尼~ず手芸部”がある。部長・篠原は、「天水館のセットがお裁縫の宝箱みたいな感じだったんですよ。なので撮影の空き時間に、能年ちゃんとこっそり布地を拝借して色々作っていました(笑)。ちょっとしたお裁縫のコツを能年ちゃんに伝授したら、能年ちゃんの表情が『キラキラキラ』っていう音が聞こえるくらいキラキラし始めて、その時も『あ、月海なんだな』って思ったんですよね」という。

オタクの秘めたるパワーは、ある一点にのみ熱中・没頭するからこそ発揮されるもの。能年の場合、それが“演じる”ということらしい。「私は自分のことを“演技オタク”って言えたらいいなって思います。それくらい演技をすることが好きです!」と真っ直ぐな眼差し。「ふだんは色々なことを頑張れない自分がいるけれど、演技のためだとふだんやりたくないことも楽しんでやれるんです。それに、そういう自分が好きだなって思える。演じている時は、自分を好きな自分でいられるんです」と、女優業は能年のエネルギーの源になっている。

「あまちゃん」の大成功で、一躍国民的人気女優の仲間入りを果たした能年。今後の活躍に期待が高まる中、能年は「やっぱりコメディって楽しいなって思ったので、もっとたくさんコメディをやりたいですね」とコメディエンヌへの決意は固い。すると篠原から、「コメディエンヌならどんな無茶ぶりが来ても大丈夫? 乗り越えられる?」と投げかけられ、「それが見てくださる方に楽しんでもらえるなら喜んでやります。コメディのオファーをお待ちしています!」と生き生きと目を輝かせた。

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