劇場公開日 2015年1月31日

ジョーカー・ゲーム : インタビュー

2015年1月28日更新
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伊勢谷友介&入江悠監督「ジョーカー・ゲーム」構築した揺るぎない信頼感

出会うべくして出会う人がいる。これからの日本映画界を担うリーダーとして活躍が期待される監督の入江悠と俳優の伊勢谷友介は「ジョーカー・ゲーム」で出会った。「SR サイタマノラッパー」シリーズで注目を集めた入江監督にとって、「ジョーカー・ゲーム」は初のメジャー作品、初の海外ロケ、初の爆破シーンなど、さまざまな“初めて”と向き合う作品であり、「なぜ、自分がこんな大作の監督を?」という疑問と大きなプレッシャーが押し寄せたそうだが、スパイ映画が大好きだということもあり「他の監督が撮るなら自分がやりたい!」と、メガホンをとることを決意し、見事に撮り切った。(取材・文/新谷里映、撮影/江藤海彦)

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入江監督の起用を「意外でしたね」と正直な言葉で称える伊勢谷。その意外は、もちろん嬉しさゆえの意外だ。伊勢谷が演じるのは、主人公の嘉藤(亀梨和也)をD機関へと誘う男・結城。この役を引き受けたのは「監督があの『SR サイタマノラッパー』の監督だったから」だと、ためらいなくオファーを快諾、同世代の監督との仕事を心から喜んだ。

「『SR サイタマノラッパー』の1から2へのあの展開を見たときに、入江監督が何をやりたかったのかがすごく伝わってきたんですよね。その時からずっと興味を持っていた監督でしたし、年下の監督と仕事をする機会も今までなかったので楽しみながら撮影に参加しました。その期待通り出来上がった『ジョーカー・ゲーム』を見て、むちゃくちゃエンタテインメントを感じさせてもらいました。とは言っても、まさかこんなに急に大作を撮るとは驚きましたけどね(笑)」。

入江監督にとって伊勢谷は、俳優としても監督としても活躍する「遠い星みたいな存在」。初めて顔合わせをしたときに「『SR サイタマノラッパー』の監督ですよね? と声をかけてくれたこと、自分の作品を見ていてくれたことに感動した」という。いくつもの“初めて”に挑むなかで最初の安心感、映画の核となるヒントを与えてくれたのは、伊勢谷の佇まいと役に向かう姿勢だった。

「伊勢谷さんの演じる結城という役はチームを統率するリーダー。他の人とは違う圧倒的なオーラが欲しいと思っていたので、衣裳合わせのときに、結城には“社長感”がほしいって言ったんですね。そうしたら伊勢谷さんがいろいろ提案してくれて、その姿を見て、D機関のあるべき形が見えてきた気がしたんです。映画って、キャスティングと脚本でほとんど決まるんじゃないかと思っているので」と謙そんするが、伊勢谷はこの入江監督が実力の伴った人物であることを、撮影現場でしっかりと見ていた。

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「大御所感があって、慌てないし、自分がこの映画でやりたいことを明確に持っている、人を生理的に飽きさせない手法とかも持っている監督ですね。と同時に、優秀な監督が必ず持っている“冷たさ”みたいなものも感じました。その冷たさって監督にとってはすごく大事なものだと思うんですよね」。自分への称賛を照れくさそうに、でも嬉しそうに受け止めていた。そして、慌ただしい撮影の日々を思い返し、この映画には「子ども時代に感じた映画の楽しさが詰まっている」と、「ジョーカー・ゲーム」スピリッツを明かす。

「往年のスパイ映画が好きなのはもちろん、小さい頃からジャッキー・チェンが大好きなので、アクションシーンの撮影になると、かつて自分が見てきたアクションシーンが頭に浮かんできちゃうんですよ。ジャッキーの動物やアイテムを絡めたアクションとかですね。もうどうにもこうにも自分の気持ち抑えられなくて、伊勢谷さんにも現場で思いついたアクション、杖で紐を切ってもらったりしています(笑)」。そんなジャッキー作品へのオマージュが込められている話をきっかけに、影響を受けた映画の話、それらを超えるために自分たちは何をすべきか──熱い映画論へと盛り上がっていく。

2人が揃って最も影響を受けた映画として挙げたのは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。「初めてタイムトリップを体験させてくれた映画だった」と、興奮気味に語り出す伊勢谷に、入江監督も激しく同意。「『ジョーカー・ゲーム』にも時計台が出てくるんですけど、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように象徴的に時計台を使いたくて、予算とスケジュールがあったらカミナリを落としたいなって思っていたんですよね」と、密かにプランを練っていたのだと打ち明ける。少年のように目を輝かせて大好きな映画を語るが、そこで終わらないのが、2人が出会った理由なのかもしれない。話は大きく未来へ。日本映画のこれからに必要なものは「哲学的な要素のあるエンタテインメント」だというのは伊勢谷の見解だ。

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「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はものすごく創造性を膨らませてもらったエンタテインメントだけれど、哲学的なものは薄かったと思うんです。たとえば『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督の作品とか、最近の『インターステラー』もそうですけど、しっかりと哲学を入れてくる映画が増えてきている。しかも難しい哲学を分かりやすく簡単にして描いているのがすごい。一方で『ゼロ・グラビティ』を見たときは鼻血が出るかと思ったくらい、映画が新しいステージに行ったと思ったんですよね」。そこで立ち止まり考えたのは、日本映画はどの方向性で頑張っていくのかということ。同じことを「ずっと考えているけれど、なかなかその方法が見つからない」という入江監督も伊勢谷に賛同、ヒントは「時代を知ること」にあるのではないかと打開策を探っていく。

「年末年始に『蜩ノ記』を見たんです。黒澤明監督に師事していた小泉堯史さんが監督・脚本で、すごく丁寧な作り方をしていた。それを見たときに、日本映画の伝統を受け継いだ映画ってまだとても可能性があるんじゃないかなって思ったんですよね。そういう時代劇にしても今回の『ジョーカー・ゲーム』にしても歴史や伝統を知らないとできないことって多いじゃないですか。僕らの世代は映画の歴史をもっと受け継いでいかないといけないなって」。

最後に入江監督が残したのは、決意とも解釈することができる力強いひと言。「今回この『ジョーカー・ゲーム』を監督する機会を与えてもらって、伊勢谷さんをはじめ、これから日本映画を背負っていく方々と出会えて、本当に嬉しかったんです。だから、負けたくないんですよ」。自分を映画の世界に引き込んだアメリカ映画に「負けない」エンタテインメントを作る。伊勢谷友介という頼もしい同志を得た入江悠監督の挑戦は、これからが本番だ。

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