劇場公開日 2014年12月13日

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「レベッカの怒りと悲しみは監督の思いそのもの」おやすみなさいを言いたくて マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0レベッカの怒りと悲しみは監督の思いそのもの

2020年1月5日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

気がつけば『プライベート・ウォー』に描かれていた、女性カメラマンのメリー・コルヴィンと対比させながら見ていました。彼女は、実在したジャーナリスト。家庭を持つことのなく、最期を戦場で迎えました。
それに対して、この『おやすみ~』のレベッカは架空の人物。家庭をもち、個人の幸せと社会正義のはざまでゆれ動く心の機微を、少ない台詞で描くエリック・ポッペ監督の手腕に感服です。もちろん、ジュリエット・ビノシュの演技は冴えわたっていました。
そして、紛争の残虐性、その中で苦しむ女性たち。その説得力に圧倒されました。
そんな作品に仕上がったのは、ポッペ監督の経験に裏打ちされていたからこそ、のことなのでしょう。
ポッペ監督の言葉を引用します。
「私は映画制作を行っていないときは、コンゴやパキスタン、ソマリアといった紛争地域に足を運び、映像を記録しています。紛争地域では、いつ何が起きるか分からないので、カメラを回し始めたらオンとオフを切り替えている余裕がありません。記録の最中に反乱軍がやってきて難民たちと一緒に逃げたこともあります。そんなパニックに落ちている状況の最中もカメラはそのまま捉えている。」
レベッカの夫マーカスは生物学者で、海洋生物の放射線による突然変異の研究をしているという設定です。舞台アイルランドの対岸はイギリス。いくつもの原発があり、排水に含まれる放射性物質は、国境を越えてやってきます。セラフィールドの原子炉火災事故もありました。これら問題をさりげなく映画に盛り込んでいる所に、ポッペのジャーナリスト魂がのぞきます。
ちなみに、原題『A Thousand Times Good Night』は、ロミオとジュリエットのバルコニーシーンで、別れを惜しむ台詞だそうです。娘たちを普通に愛することができないレベッカの、それでも愛しく思う心と、悲しさや寂しさが、そこにはにじみ出ている気がします。

マツドン