劇場公開日 2014年3月7日

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「歴史認識を改めさせてくれたオスカー受賞作」それでも夜は明ける arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0歴史認識を改めさせてくれたオスカー受賞作

2014年3月19日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

奴隷制を巡って戦った戦争が南北戦争だから、北部と南部で黒人の立場も白人の立場も違っているのは当然だが、どうも奴隷制廃止以前のアメリカでは、黒人は奴隷として搾取され白人はそれを支配しているという思い込みが刷り込まれてしまっている。
だから、北部で自由黒人として白人と同じように家族を養っているソロモンの姿がすんなり入ってこない。
しかし、そんな北部でさえ黒人に対する差別意識はあっただろうし、その際たるものがソロモンの拉致だ。何しろ南部では黒人は売り買いの対象だったから。
拉致され奴隷として南部へ連れて来られたソロモンには自由黒人だった自分は南部の黒人とは違うという特権意識があって、それがこちらが感情移入しずらい理由でもあるのだが、彼もまた自分が奴隷になって初めて南部における黒人の状況を知った人間のひとりだったのだと思う。
年老いた黒人奴隷の葬送。
黒人霊歌で仲間を送る歌声に合わせてソロモンも歌い出すシーンは彼の中の特権意識が取り除かれた象徴的なシーンだと思う。

実話ベースの今作だが(全てのキャラクが実在したとも考えにくいが)、キャラクターの配置が巧み。
北部の黒人ソロモンと南部の黒人パッツィ、人間的な製材所の持ち主と冷酷非常な農場主(白人現場監督)と対照的な人物を配置することでこの時代にあっても、黒人と白人という単純な対立構造ではなく、様々な立場で様々な考えを持った人間がいたということを教えてくれている。
ただ、(監督が気を遣ったのか)プロデューサーでもあるB・ピットが正義の味方然としたあの役を演るのは如何なものか?あの役はどちらかといえば無名の俳優が演じた方が物語としては生きたのではないかと思う。

主人公であるソロモンに感情移入出来ない中で、どのキャラクターが印象に残ったかといえば、それはM・ファスベンダー演じた農場主。彼のパッツィに対する執着は“愛”以外の何物でもなくて、それは本人以外の人間から見れば明らかで、だからこそ彼の妻もパッツィに辛く当たる訳だが、その“愛情”を自分にも他人にも認める訳にはいかずに悶え苦しむファスベンダーが素敵。
この複雑なキャラクターを彼にふったあたりは・マックイーン監督のファスベンダーに対する信頼を物語っていると思う。

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arakazu