劇場公開日 2014年7月12日

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「時代劇の名脇役の生き様」太秦ライムライト REXさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5時代劇の名脇役の生き様

2020年10月11日
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鑑賞方法:TV地上波

泣ける

悲しい

興奮

福本清三さんが座り、佇み、殺陣をする。楽屋で顔を造る、踏切が上がるのを待つ、盆栽の手入れをする。
もうそれだけでなんだか切ないのである。
殺陣役者というより、一人の武芸者の面立ち。人を生かすも殺すも人次第。「殺された」場合の人間のいかに惨めなこと。

人間、どんな状況であっても後輩は先達に対してこういう処遇をしてはいけない、引き際をきちんと設けなければならない、としみじみ思った。「人の顔を立てる」という日本語は正鵠的を得ている。
ひどい扱いを受けても、うつむき加減に黙々と与えられた仕事を全うする愚直さに、何度も目が潤んだ。

ドキュメンタリーにも胸を打たれました。
劇中も時代劇スターを演じる松方弘樹に対して、挑発するシーンで何度もつまづく福本さん。
劇中の香美山は、福本さんそのままだから、本当の大スター松方弘樹に対してどうしても暴言が言えない。そんな福本さんに松方さんが「おい、同級生。とって喰いやしねえよ」と気遣うのだ。福本さんは「主役なんて」と謙遜するけれど、立派に背中で泣かせる役者だと思う。

邦画らしくない編集だなと思ったら、ハリウッドで映画を学んだ日本人と、撮影監督のコンビが撮りあげたものでした。
ただ、さつきが一躍脚光を浴びた後に派手なワンピースを着てきたり、トップアイドルが月代を嫌がってかつらを付けるなど、ちょっとステレオタイプすぎるシーンに失笑も。

香美山がいったん田舎に引っ込んだ時の、田畑で棒きれを使った美しい殺陣シーンは、【ベストキッド】を彷彿とさせます。こういったわかりやすさも、外国で受け入れられやすいと思う。

あらゆる角度から撮れるだけとって、編集で良いカットをつなぎ合わせるハリウッドの手法と、一発撮りを信条とした殺陣師の食い違いがあって、最初は監督さん辛そうでしたけど、出来上がってみたらキャストも納得だったのではないでしょうか。監督が日本人だから、描写に変なところもないし。
きっと外国人からみたら名札で出番を割り振るシステムは「アナログ」に見えるだろうけど(笑)

大一番の殺陣シーンはデジタルからフィルムのようにタッチが変わるのだが、その「劇中劇」があまりに格好よくって。
最後に香美山倒れ込むシーン。
「引退」の象徴以上に、一人の男の「役者生命」が終わり、まるでそのまま死んでしまうようで切なかった。

つくづく、アイドルばかりを主役に登用する「なんちゃって時代劇」ばかり横行する昨今、本物の時代劇をみたい!と欲していた自分に気がつきました。
一昔前の時代劇スターも若いうちに主役をはる人が多かったけど、「顔」の迫力やオーラが違う。
精神年齢がどんどん下がっているのかもしれない。

「どこかで誰かが見ていてくれる」という台詞とともに、後世に良い時代劇を残してもらいたい。
そのために観客は何ができるだろう。

REX