劇場公開日 2013年12月7日

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受難 : インタビュー

2013年12月4日更新
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岩佐真悠子「受難」で体感した変化の予感

ヒロインの陰部にできた人面瘡が、ある日突然、しゃべり始める――。最初に話を聞いたとき、岩佐真悠子の頭の中には「?」が並んだ。「どうやって映像化するの?」と当然の疑問が浮かぶ。そこで、原作を読んでみたら「内容はすごく面白くて素敵だった」。だがここでもうひとつ、新たな問題が浮上する。「主人公に全然、共感できなかったんです! なぜ私にこの話が来たのか?」。そんないくつもの疑問が中央に居座ったまま、岩佐にとって「最大の挑戦」となった映画「受難」は少しずつ動き始めた――。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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原作は過去に4度、直木賞候補に名を連ねてきた実力派作家・姫野カオルコ氏の小説。修道院育ちの穢れなきフランチェス子は容姿に恵まれながら、男性に性的関心を持たれることがない。そんなフランチェス子の陰部に突然、人面瘡ができ罵詈雑言を浴びせてくる。彼女はそれを“古賀さん”と呼び、奇妙な共同生活を送るようになる。

自らとかけ離れたヒロイン役のオファーに驚きつつ、岩佐は吉田良子監督に会った。「自分の中にあった疑問をぶつけたんですが、ひとつひとつ丁寧に答えていただきました。答え以上に監督の人柄にひかれた部分がすごく大きかったですね。女性監督と聞いて、どこかエキセントリックだったり、強い女性のイメージがあったのですが、すごく柔らかい方なんです。TVドラマなどでは時間的な制約もあって『いまの芝居でいいのかな?』と思いつつ進んでいく部分もあるんですが、この人となら丁寧に作品をつくっていけそうだなと感じました」。

清楚で男性から興味を持たれることのない女性。原作を読んでも、これまで岩佐が演じてきた役柄、本人のもつイメージに近いとは言えない。なぜオファーがきたのか、岩佐自身が誰よりも疑問に思っていたが「監督は『全くイメージと異なる女性でやりたい。何より、これまでにない岩佐真悠子を見たい』とおっしゃってくださり、そこで私自身、殻を破る良い機会かも。これを自分の中の分岐点にしたいと思った」と出演を決断した。

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そこから、撮影を通じてフランチェス子を作り上げていく作業は「分からないことの連続だった」という。これまでは「どこかで自分に近い役柄が多くて、自分の中の引き出しから出して、広げていく」役作りが多かったが、今回は全く勝手が違った。「愛とは何ぞや? 幸せとは何ぞや? とフランチェス子は思い悩むけど、彼女の考えがどうしてそこに行き着くのか、よく分からない中で想像するしかなかった。イン前に監督とシーンをピックアップして演じながらキャラクターを固めていき、あまりに考え過ぎると行き詰まるので、勢いも大事にしつつ…終わったら毎日グッタリしていましたよ(笑)」。

フランチェス子や岩佐と同じ20代から30代の男性は、「愛とは?」「セックスとは?」などと考えること自体があまりないように思う。岩佐は「いや、女性だって普通はフランチェス子のように真正面から『セックスって何なんだ?』なんて考えませんよ!」と笑いつつ「でも…」と続ける。「彼女ほどストレートでなくても、20代で結婚を意識し始めた女の子が『いま付き合っている彼のことは好きだけど、結婚は考えられないかな?』と話したりするのは割と普通ですよね。そこで『付き合うのと結婚って、どこが違うの?』と考えたり。それは真面目で何も分からないフランチェス子が『愛とは?』『セックスとは?』と考えるのと同じことなのかもしれませんね」。

岩佐が16歳で「ミスマガジン2003」に選出され、芸能界デビューを果たしたのがちょうど10年前。グラビアモデルとしての印象が強いかもしれないが、デビュー当初からグラビアと並行して、女優として映画やドラマに出演しており、岩佐が女優の面白さに目覚めたのは決して最近のことではない。役という“布”を1枚挟んで、カメラの前に立つことに快感を覚えていた。

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「グラビアの仕事って私自身を見せるものなんです。でもお芝居は自分だけど、自分ではない役柄や物語を見せるもの。それは全然違います。そもそも、私は自分を見せるのが決して好きじゃないんですよ。岩佐真悠子なんて『見てよ』と言うほど大した存在じゃないし、ごく普通の女の子と変わらない。グラビアでドーンと自信満々に自分を見せられたのは……若かったからかな(笑)? もういまは恥ずかしくてできないです。グラビアの仕事をずっと続けられるわけじゃないことは、若い頃から分かっていたけど、その中で『私はお芝居がやりたいんだな』という気持ちが自然にわいてきた。ひとつ女優の仕事を終えるたびに、成長を積み重ねられたことが実感できるんです」。

仕事を始めたときは「ずっと続ける気なんてなかった」というが、いつのまにか10年が経っていた。「仕事もプライベートも楽しみながらやってこられたから、ここまで続けられたんだと思う」と静かにうなずく。「10年前と比べたら確実に老けたし(笑)、考え方も変わったかもしれない――。でも、いまの自分が意外と嫌いじゃないんです」。

この映画で、初めて自分自身とかけ離れた役柄を生きたことで「もっともっと違う役柄をやってみたいという気持ちも芽生えてきた」と変化の予感をひしひしと感じている。一方で「違う役柄を演じたからこそ、自分というものをこれまで以上にハッキリと知ることができたのかもしれない。理由は分からないけど、すーっと楽になりましたね」。この新たな一歩が岩佐をどこへ連れて行くのか。新しい年が楽しみだ。

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