劇場公開日 2013年11月16日

夢と狂気の王国 : 映画評論・批評

2013年11月12日更新

2013年11月16日より新宿バルト9ほかにてロードショー

宮崎駿と高畑勲との間にある複雑な愛憎がリアルに浮かび上がっている

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ジブリのドキュメンタリーではなく、ジブリをテーマにした映画を作る。「エンディング・ノート」で死に向かい行く父の姿を映画にした砂田麻美監督が、こう意気込んだ第2作だ。「風立ちぬ」を鋭意製作中の宮崎駿、「かぐや姫の物語」に苦闘する高畑勲、ふたりの間で奮迅する鈴木敏夫プロデューサーが、いままで見せなかった表情を見せて興味深い。

主人公は完全に「宮さん」こと宮崎駿。普通のドキュメンタリーと何が違うかといえば、ナレーションも務めている砂田監督が登場人物のひとりになっていること、女性監督ならではの視点で、心に映った老クリエイターたちの姿を描いていること。約1年、カメラを抱えてジブリに通い詰めたという監督の目には、そこに居着いた猫のウシコの存在が大きく映る。そしてウシコを見習うようにどこにでも入り込み、楽しそうな「宮さん」と会話する。

タイトルには「狂気」とあるが、クリエイターにつきもののそれはさほど強調されてはいない。ただ、宮崎駿と先輩であり師でもある高畑勲との間にある複雑な愛憎、作品に対する執念や葛藤はリアルに浮かび上がっている。そして「風立ちぬ」の声優が庵野秀明に決まり、完成するまでの過程が非常におもしろい。引退を決めた宮崎駿の「エンディング・ノート」的な見方もできるかもしれないが、引退記者会見の直前、監督を窓辺に呼び寄せてアニメーション製作の極意を披露する宮崎駿には、まだまだ創作欲がみなぎっていそう。

終盤には緑の深いジブリで夢を叶え続ける宮崎駿が、まるでファンタジーの世界に住む登場人物のように見えてくる。この映画にあふれんばかりの詩情のせいだ。

若林ゆり

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