劇場公開日 1990年2月10日

「演出は最高!」カジュアリティーズ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0演出は最高!

2023年12月19日
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鑑賞方法:DVD/BD

カジュアリティーズ、とは犠牲者のこと。日本語にも歪曲表現というか、直接的でショッキングな言葉をもっと柔らかで刺激の少ない言葉に代替したようなものがあるけど、英語も一緒。多分どの言語でもそう。
「戦死者」「被害者」だと強い意味を持つ漢字が入るけど、「犠牲者」「戦没者」だと少し薄れた感じがするでしょ?

ベトナム戦争に限った事じゃないけど、戦争の被害の大きさは、情報の受け手に配慮され、特に被害をもたらした側の都合で、悲惨さをダイレクトに伝える機会すら奪われる。

英語casualtyの語源には「偶然の」という意味が含まれ、拉致された少女も、偵察行軍の5名も、もっと言えばベトナム戦争そのものすら、「たまたま運悪く起こった」出来事、というエクスキューズを持たされる。
それが「カジュアリティーズ」という言葉の持つ力だ。

カジュアリティーズ、という言葉に置き換えられてしまった犠牲の、本当の中身を、この映画は描いている。「運が悪かったから、仕方ないのさ」と割りきれない主人公の目線を持って。
「犠牲者」という曖昧な表現に隠れた戦争の真実を突きつけようとする、そんな映画だと感じた。

ただ、映画としてはイマイチ。デ・パルマらしいサスペンスフルな演出は面白いし、主演のマイケル・J・フォックスも好きだし、ベトナム戦争ものも大好きなんだけと、何だかパッとしない。
これは個人的な意見だけど、ベトナム戦争という戦争自体が「不条理」である他のベトナムものに比べて、アメリカらしい「正義の戦争」をしちゃってるところがダメなんじゃないか、と思う。
兵士も家族も民衆も、誰一人喜ばない戦争、何のために戦ってるのかわからない戦争、それがベトナム戦争が「狂気」を孕んでいる根源だと思うけど、「カジュアリティーズ」の主人公は理想に燃えちゃってるんだよね。
最初から最後まで青臭いくらいの熱血正義漢だから、戦地の他の兵士たちとの違和感がすごい。

とは言え名優ショーン・ペン、ジョン・C・ライリー、ジョン・レグイザモの若々しい姿も観られて、そこは満足。

ベトナム戦争ものの入り口としては入りやすいかもしれない。皮肉にもすごく「カジュアル」な戦争映画なのかもね。

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つとみ