劇場公開日 2014年2月7日

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「コクピットにいるかのような疑似体験。 つい身を乗り出してしまう。」ラッシュ プライドと友情 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5コクピットにいるかのような疑似体験。 つい身を乗り出してしまう。

2022年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

怖い

興奮

幸せ

後味さわやか。
 乱交シーンがなかったら、子どもに推奨したい映画。
 事故と、その後の治療シーン・顔の傷は年齢によってはトラウマものだが、
 その不屈の精神と、障害をものともしない姿勢とかも、見て感じ取ってほしい。
 ”チャンピオン”にこだわった二人の男。
 ”チャンピオン”目前にしての選択。
 一度、栄光を手にして、自分の実力を証明してからの引き際。
  しがみつくけれど、しがみつかない。
 命を懸けた職業。ある意味、チキンレース。すぐそばにある死・大事故。
 ただ、二人とも、無謀に命を軽んじたわけではない。
 その、アプローチの仕方こそ、真反対の様で、似た者同士の二人を中心とした映画。

F1レースは全く知らないと言っていいほど知らない。時折流れるニュースを見るくらい。
『チキチキマシン猛レース』や『マッハGOGOGO』は大好きだけれども、別次元の話。
『デイズ・オブ・サンダー』は見たけれど、レースの種類が違う。

実話ベースの映画なのに、きれいに起承転結。切り取り方が上手い。
 事故からの、驚異的な速さでの復帰。
 事故後のイタリアでのレースでの、あわやと言う場面での切り抜け方。
 そして、ワールドチャンピオンが決定する大詰めのレースでの、順位の変転。
 まるで、フィクションのような展開。だが、事実。記録に残っているはずだから。
事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

「もっとレースシーンを」「レースの駆け引きが描かれていない」というレースファンのレビューもあるが、
レースシーンと、ラウダ氏・ハント氏を軸とした描写が半々。
他のレーサーたちは割愛。

人間ドラマは、あっさりと。
 ハント氏のスポンサーが破産して、次を探すところとか、離婚とか、
 事故後、ラウダ氏の後任をさっさと決めた雇用者との確執とか、
 その後復帰の際にはそういう駆け引きがあったのかとか、
 ジャパンGPでの決断後の雇用者との関係とか
 もっと、周りの人々を含めて、人としての嫌な部分が露呈するようなドラマがあったのではないかと思うが、そこはあっさりとさわりだけ。
 インタビューやスピーチの受け答えは、実際のやり取りなのだろうか?機知に富んでいる。
 記者へのフルボッコは映画としては気持ちがいいが、今やったら、SNS等で炎上、記者会見謝罪もの、ワイドショーのいいネタだな。下手したら謹慎処分。

そういう嫌なシーンが極力少ない代わりに、
ラストには、破産したスポンサー夫婦や元妻がTV観戦で応援している姿。
クルーが「生きて帰ってきて欲しいんだ(思い出し引用)」と伝えるシーン等、愛にあふれている。

映画中、”孤独”が強調されるラウダ氏だが、妻やフェラーリへの移籍に引っ張ってくれる先輩等、人の縁に恵まれている。けっして、”孤独”ではない。孤高の立ち位置なんだろうけれど。
 ”まじめでコンピューターのような面白みのない”と言われるラウダ氏の、妻となる人との最初の出会い。同乗しているお兄さんたちともども、「ヒャッホ~」となってしまう展開。

遊び心あふれている。鑑賞者の心の機微を知り尽くしたかのような脚本・編集。

そして、魅せる映像。
 迫力あるレース。自分もF1カーに乗っているかの様。視界の悪さ等も再現。中継のように全体像をみせながらも、コクピットからの視点、マシンの一部を切り取った映像。巻き上がる芝生と飽きさせない。遠景・近景。追い抜き展開を木で隠した後のという展開も揚がる。過去の実物映像も使っているのか?役者が乗っているかはともかく、実際に走らせた映像と、演技している映像を織り交ぜているのか?
 事故の壮絶さは怖かった。鑑賞しているだけなのに、炎が肺に入ってくる感覚。病床のシーンも傷口のグチュグチュがリアル。見ているだけで痛そう。
 色使いや構図も見事。緑豊かな田園風景でのシーン。不安を煽るシーン。シルエット、眼のアップ。ぼやけた視界。嵐をバックにした人影。雨粒までもがはっきりと見える。黒澤明監督は、雨を映像に映り込ませるために、墨を降らしたというが、この映画ではCG処理か?
 スピード感あふれるシーン。スローモーション。
 「納得している(思い出し引用)」というシーンの後で映る富士山のすがすがしさ・神々しさ。揺るぎない安定感。霊山・富士!!!
 こちらも、鑑賞者の心の機微を知り尽くしたかのような映像。

かつ、情緒を揺さぶる音楽。
 高揚感の高め方。不安の煽り方…。
 繰り返しになってしまうが、鑑賞者の心の機微を知り尽くしたかのような音楽。「これから大変なことが起こりますよ、今は楽しい気分ですよ」等、気持ちを先導されるようでもあるが、まんまと罠にはまってしまう。
 意外にエンディングがアゲアゲの曲ではない。かえって、二人の関係の気高さが染みわたってくる。

実況中継は本職を起用か?
ずっとレポーターとして出てくるもみあげの男性とかも本職のレポーター?

役者もいい。
 どこか憎めない”小シバ犬”顔の笑顔を見せるハント氏。レース中の表情とのギャップに萌える。大きなぼうや。
 ”鼠顔”と映画の中で評されるラウダ氏。歯に衣着せぬものの言いよう。自信満々な物腰なのに、ちらつく自信なさげな表情・猫背。事実をズバッと言ってしまうのも誠実だからこそかなと思わせる妙。シーンによってハンサムに見えるときと、そうでもないときのギャップが面白い。
 ハント夫人。高慢で、愛され方は知っているが、愛し方は判らない繊細さと残酷さを表現して見せる。
 ラウダ夫人。受け答えは機知に富んでいて、ハンサムウーマンなのだけれど、耐える女として描かれる。ラウダ氏を高めたのはハント氏だろうが、人生を豊かにしたのはラウダ夫人。
 ラウダ氏をフェラーリに引っ張ってくれる先輩は、活躍どころがないが、常にラウダ氏を見守っているシーンで出てきて印象深い。
 皆、眼で多彩な感情を語る。そういう演出なのだろうが、百の言葉よりも饒舌。
 そして、陽気なハント氏の元スポンサーもお気にいり。「スーパースター!」彼にならそう呼び掛けてもらいたいなんて思ってしまう。
 どこをどう計算間違いしたのか弟・会計士!ハント氏の実家に責任を取ってもらいたくなるが、損失は、それでも火に油的な金額なんだろう。ハント氏が完走できていたらスポンサーもついていたのだろうが、その辺の”責”も追及しない。自分の道楽・根っからのハント氏のファンと腹をくくっている様子にまたグッとくる。

と、職人技が結集したエモーショナルな映画。
踏み込みが足らない気もするが、きれいにまとまっている。
スカッとしてさわやかさに浸りたい時、
F1カーに疑似便乗して非日常に跳んでいきたい時、見返したい映画です。

☆   ☆   ☆   ☆    ☆

<蛇足>

しかし、あの悪天候の中、レース決行?放映権の関係だなんて。
 霧や豪雨・台風と経験している日本人にとっては、あの視界の悪さ、スリップしやすい道路状況がどんなに危険か知っている。映画でも、視界が開けたら、目の前に車!というシーンがあったほど。機械部分に雨が入ってきて、トラブったりはしないのだろうか?人の命なんて考えていなかったのね。合法的なデスマッチとしてしか考えていたのだろうか?
 1976年。日本はバブル前夜で、金儲けしか考えていなかったことが恥ずかしかった。
 あの時のラウダ氏の表情にじ~ん。目だけで語る。

ラウダ氏。
 視神経や運動神経・聴覚・お尻の感覚の損傷はなかったんだね。
 他の人の事故シーンでは足を損傷していたけれど、この時のラウダ氏は足も怪我していない。訓練・シミュレーションの賜物?事故の時、こうすると怪我が最小限に抑えられるとか。
 レース服は耐火加工だったのだろうか。生きていてよかった。400℃の炎の中、救出にあたった人々の勇気にも感謝。

ハント氏。
 女性との関係は、通常ではありえないと思えるエピソードを聞く。
 HIVは大丈夫だったのだろうか。最初のHIV患者の”発見”が1983年だから、まだ、乱交が危ないなんて認識もなかった頃だろうけれど。

とみいじょん
CBさんのコメント
2022年8月12日

> ”孤独”ではない。孤高
ああ、素晴らしい表現ですね。そうだそうだ。
孤高だから、大変なんですね。

CB