劇場公開日 2014年8月22日

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「善悪では割り切れない、立った側の物語。」プロミスト・ランド(2012) ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0善悪では割り切れない、立った側の物語。

2014年10月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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『ボーンシリーズ』や『グリーン・ゾーン』、『エリジウム』辺りで、こうマット・デイモンといえばアクション俳優!の方向での印象が最近は強かったように思いますけど、実際の彼は穏やかというか、結構人間臭い役柄の方が性に合ってるんじゃないかな、と思うんですよ。しっとりとした演技が得意な役者さんというか(しっとりという表現が適してるかはアレですけど)。
今回の彼も、大手エネルギー企業の幹部候補生という役柄で、名前はスティーヴさん。野心はたっぷりと持っているんですけど、悪辣とは呼び難く、何処かチャーミング。田舎町のシェールガス採掘権を手に入れてやろうと躍起になりながらも、非情には徹しきれない……という、これまた人間臭いキャラクターなんですよね。

で、そのシェールガス採掘権を楽勝で手に入れたなら、この話は即行で終わってしまう訳なんですが、まあそうは問屋が卸さないよね、というのがこのお話の展開でして。
環境破壊を懸念する住民との対立構造が生まれてしまうんですね。恩恵を受け入れたい人々と町の環境を守りたい人々とで意見が分断されてしまう。さあ。さあ、こっからスティーヴさんが地域住民への根回し活動に奔走して行きます。が、雲行きは更に悪くなる。何故か何処から話を聞き付けたのか、環境保護団体の男から妨害工作を受けてしまうという。スティーヴさん大ピンチ。だけど、確かに環境破壊の可能性はゼロではないし、そういう事例もある。しかしその一方で、シェールガス採掘にGOサインを出せば、町自体が潤うことは確約されている。
果たして住民は、最終的にどちらを選ぶのか?と。

そしてですね、この映画、「じゃあどっちに正義があるの?シェールガス採掘は悪なの?」という方面に舵を切るのかというと、これがまた本当に面白い部分で、そうはならないんですよね。そういう割り切れる話じゃないんだよ、という。立つ側の視点によって変わるんですよ。環境が汚される将来を懸念する側と、金を手にしたいとする側。また第三の視点として企業の思惑もある訳です(まあ結局は金を手にしたい側なんですが)。
ここで、スティーヴが「で、お前はどっち側に立つんだ?」という決断を委ねられる。

面白いんですよ、本当に。「自然を大切にしましょう」なんて教訓を伝えたい、て訳でもなくて(言う人は出てきますが)。「お金を欲しがることは悪だ」とも言ってない。こういう決断をスティーヴは下しましたよ、というだけのことで。思えば監督のガス・ヴァン・サントって、そういう傍観者的な視線を持った作品撮る人だよなあ、と納得した次第です。

自分だったら、どっち側に立つんだろう?と想像してみるのも楽しいかもしれません。是非少しだけ考えてみてください的な、そういうメッセージ性といえばいいのかな、何だろう。兎に角、マット・デイモンの演技にはそういう説得力がありました。

ロロ・トマシ