劇場公開日 2013年11月23日

「ここ10年くらいのジブリベスト」かぐや姫の物語 ONIさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ここ10年くらいのジブリベスト

2013年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

楽しい

素晴らしい、としか言いようがない。死んだような竹取物語からこんな豊かな、感情を揺さぶる映画ができるなんて。ましてや、「姫」といったら宮崎駿の専売特許みたいなところもあるが、誕生から別れまで、ひとりの女性の成長物語として、宮崎駿の上をいっていたような気がする。「赤毛のアン」のアンのように世界を輝く眼で捉え、そして成長していく女の子の物語と、幽閉されてしまう「姫」の物語。そして絵柄は「山田君」よりもこの題材にぴったりで、まさにキャリアの総決算にふさわしい題材だったんだな、と改めて思った。
自然描写よりも、人物描写に目がいった。姫の驚き、拒絶、怒り、喜びは、まさに生き物のようだった。で、ああいった隙間のある抽象的な絵柄だからこそかもしれないが、声優の質の高さが発揮されていた。
姫を演じる朝倉あき、捨丸を演じる高良健吾(今年実写最高峰『横道世之介』コンビ)、このチョイスが素晴らしい。俳優から表情を奪う声優という作業は、実は、俳優の性格をもっとも映し出すのではと思える程良かった。
こんなに雑念なしでどっぷり世界に浸れた映画は何以来だろうか。何より宮崎駿からすっかり消えてしまった意志、貫き通す志の強さに感動した。多分に実験精神溢れすぎる感じはしないでもないが、ものをつくる、というのはこうするのだという強靭な精神で、美しい成長物語を見れて背筋が伸びた。多分、むかしポールグリモーの『やぶにらみの暴君』なども美しい話と実験精神の結合だったんじゃないか。高畑勲の総決算にして原点回帰だったのかもしれない。あと何回観に行こうか、というところだ。

ONI