劇場公開日 2013年3月2日

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ダークホース リア獣エイブの恋 : 映画評論・批評

2013年2月26日更新

2013年3月2日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

辛辣で痛烈だが、どこか寛容。ソロンズ式コメディはまだ化ける

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トッド・ソロンズの映画には駄目な人間がよく出てくる。嫌な人間、と思わず口走りそうになるが、そんな乱暴をいってはいけない。まあ、好感や共感をもてないことはたしかだが、思わず笑い出してしまうこともしばしばだからだ。ここがソロンズ映画の急所か。

ダークホース リア獣エイブの恋」の主人公エイブ(ジョーダン・ゲルバー)も凄まじくイケていない30男だ。デブで、薄毛で、裕福な両親の家に寄生し、父親の不動産会社で働かせてもらい、黄色いハマーを乗りまわし、仕事中にeBay(イーベイ)で450ドルのフィギュアを買う。当人は「俺、フロントランナー(先行型)じゃなくて、ダークホース型なんだよね」と胸を張るが、馬群に沈むばかりで浮上の気配は一向に見えない。いや、この駄馬は出走ゲートにさえ入っていないようだ。

そんなエイブが、むっつり美人のミランダ(セルマ・ブレア)に恋をし、短兵急に求婚する。いいわよ、と投げやりに答える彼女だが、こういうときにはたいがい秘密が伴う。

あとはほぼ予想どおりの展開だ。が、今回のソロンズはちょっとした変化球を投げてくる。不動産会社で地味に働く50女のマリー(ドナ・マーフィ)が、エイブの危機と好機とを問わず、「幻の女」さながら頻繁に登場するのだ。当然、エイブは動揺する。わけがわからなくなって、眼をこすりまくる。

この辺になると、ソロンズのピンセットさばきはやはり面白い。ピンセットを使ってエイブの棘を引き抜くかに見せかけ、むしろ、刺さった棘を皮膚の内側に押し込んでいくのだ。が、映画の印象は陰惨にならない。辛辣で痛烈な作風に変化はないものの、今回のソロンズはどこか寛容だ。だからこそ、エイブの自業自得も意外にほのぼのとした記憶となって脳裡に残る。ソロンズ式デッドパン・コメディには、まだまだ先がありそうだ。

芝山幹郎

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