劇場公開日 2013年11月9日

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四十九日のレシピ : インタビュー

2013年11月8日更新
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永作博美が体現してみせた静けさのなかに潜む凄味

1990年代初頭からドラマ、演劇に出演し、女優歴は優に20年を超えるが、永作博美が映画に出演するようになったのは、意外にもここ10年ほどのこと。映画との出合いの衝撃を「それまでとは全く違う畑だった」と表現するが、まさにこの10年は飛躍の軌跡と重なる。主演最新作「四十九日のレシピ」で永作が演じたのは娘であり妻であり、そして母であろうとしたがかなわなかった女性。「最近、事件性の多い役が多かったので(笑)、今回のような静かな役は新鮮でした」と語るが、この静けさの中にこそ凄味が詰まっている。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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原作は、伊吹有喜氏の同名小説。離婚を決意し、母が亡くなったばかりの実家へ戻った百合子が、母の遺したレシピ、「四十九日はみんなで大宴会を」という遺言に導かれ、頑固な父や家に集う個性的な若者たちと過ごすうちに再生への一歩を踏み出していくさまを描く。日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をもたらした「八日目の蝉」では愛人の娘を誘拐して育てる女性を演じたが、本作の百合子は不妊治療に励むも子宝に恵まれず、夫は愛人を妊娠させてしまう。

永作自身は10年に第1子、今年6月には第2子を出産している。見ている側は、女の業や性(さが)を抱えた役柄を続けて演じること、永作自身の私生活を踏まえ、何かしらの意味やつながりを考えてしまうが、本人は「正直、そこに関してはあまり深く意識することはなかったです」と拍子抜けするほどあっさりとした口調で語る。

「役というのは俳優が求めているものとは全く関係なく来るもので、どんな役であれ私自身の人生と同じものはひとつとしてないですから。役者という仕事は基本的に全て、自分の人生にないもので作られていくものだと思っています。その意味でやることはいつもと変わらなかったです。(タナダユキ)監督からも『とにかく一度、一緒にお仕事したかった』というお話はうかがったんですが、それ以上の理由は特に聞いていないです」。

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とはいえ演じる上で、百合子が抱えているものは否応なく強く意識させられた。「百合子が背負っている“荷物”は本当に重いものですからね。それを表現するというのは非常に緊張しました。特に最初のシーン(夫の浮気相手から電話で妊娠を告げられ離婚を迫られる)で部屋にたたずむ百合子の重さはどれくらいのものなのか。そこから進むにつれて(重さは)変わっていくんですが、彼女が負っているダメージはどれくらいのものなのかというのは常に考え、意識しました」。

声がデカい父(石橋蓮司)にハイテンションのロリータ少女(二階堂ふみ)、「ボニータ(かわいい)!」を連発する日系ブラジル人(岡田将生)と騒々しい人々に囲まれた百合子役に求められたのは、“受け”の演技。声を荒げたり、感情をむき出しにするようなシーンはほとんどなく、何か大きな事件をきっかけに、物語が劇的に転換することもないが、周囲とのやり取りによって「百合子がまとっていた鎧が、ゆっくりと溶けていく」のが確実に伝わってくる。

「そこは、脚本を読んだ時から難しさを感じていました。これまでアクの強い役が多かったので(笑)、周りに反応しながら徐々に変わっていく役を自分がどう組み立てるのか? 新鮮でもあり、興味もありました。正直、最初は『こんな女性、実際にはいなさそうだな』と思っていたんです。でも、演じていくうちに味が出てきて、リアリティを感じられました。最後まで静かなんだけど、やっとひとつ自分で決断をする。それは小さすぎて、静かすぎて、もしかしたら周りには気づかれないかもしれないけれど、確実に一歩を踏み出しているんです。だから、見る人によっては結末を『なぜ?』と思う人もいるかもしれませんが、私は演じながらこの結末に向かっているのを自然に受け止めていました」。

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自身の中でどういう役をやりたいといった欲望は「全くない」という。どの作品でも引き受けるかどうかを考えるのは「自分がやることで役が生きるかどうか。あとは必死に役に巣立ってもらうことだけ」だが、「めぐり合わせやタイミングが何より大きい」とも。実際、キャリアの序盤で映画に全く出演しなかったのも、単にタイミングが合わなかったことが一番の要因。そうした時の運、“ズレ”を本人は「幸運だった」と受け止めている。

「ちょうど10年くらい前って『このままの芝居をやっていたらヤバいな。変わらなきゃ』と思い始めていた頃だったんです。そこで映画のお話をいただいて、やってみたら同じお芝居のはずが全く違っていて新鮮で衝撃的でした。『この畑をゼロから耕すのか!?』って。でもそれが面白かったし、個性的な監督とご一緒させていただけたのも大きかった。いっぱい絞られて、いっぱい勉強させてもらい、映画によっていまの自分が作られたんだなと実感しています」。

決して20代の頃、目立たなかったわけではない。だが30代半ばを過ぎてから、これほど存在感が際立つ女優というのもなかなかいない。本作のような“重さ”を抱えた女性から魔性の女、コミカルな存在まで人によって永作に抱くイメージがバラバラで定まらないのも興味深い。「役者としてそれは本望ですね。『本当の自分』を知られたら終わりだし、その役として見てもらえなきゃ成り立たないですから。まあ、変わらず得体のしれない感じでいたいですね(笑)」。

冗談めかしてそう漏らしつつ、「年齢を重ねていくのが楽しい」とも明かす。「年を重ねて、いろんなことが分かってくるのが楽しいですね。本当の意味で親のありがたみを分かってきたのも、やっと最近、自分が子どもを育てるようになってからですし。『いまか!』って感じですが(笑)、人っていつまでも成長するし、年を重ねないと分からないことってあるんですよね。いろんなことが腑に落ちてきて、これからもっと楽しそうだなって思っています」。

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