劇場公開日 2013年6月14日

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「赤いビーチボールに託された家族の絆は、水中に沈まない」インポッシブル Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5赤いビーチボールに託された家族の絆は、水中に沈まない

2023年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2004年の12月26日にスマトラ沖地震から発生した大津波に襲われたスペインの五人家族が、幾多の苦難を乗り越え再会を果たすまでの実話を基にしたディザスター(災害)映画の感動作。ビーチリゾートとして世界的に名高いタイのプーケット島から北に位置するカオラックが舞台となり、美しい海の地上の楽園と呼ぶに相応しい観光地が一瞬にして廃墟となる自然の脅威と、過酷な状況に置かれても諦めない強い絆で結ばれた家族愛が描かれている。地震発生から2時間30分以上過ぎてから津波が到達しても、地震の情報と津波を知らせるシーンが無いのは、この時代の大地震への警戒意識の低さと津波の恐怖に関する無知故の時代背景だからだろう。災害から9年を経て制作されたこの映画には、2011年の東日本大震災の衝撃を含めての、人類への警告のメッセージを感じ取れる。

しかし、映画が描いたのはあくまで主人公ベネット家の互いに思いやる心の美しさであり、津波のシーンは家族の視点からがメインで、パニック映画のスケールを目的にはしていない。そこが良かった。津波に飲み込まれるシーンは、母親マリアと長男ルーカス二人に絞り、瓦礫と泥まみれの水中シーンを的確に映像再現している。そしてこのマリアを演じたナオミ・ワッツの渾身の演技が素晴らしく、足に重傷を負いながらも医師の知見を活かし冷静に状況判断するマリアの人間的な胆力を見事に表現している。と共に、舞台ミュージカル「ビリー・エリオット」で才能を開花したトム・ホランドが映画初出演とは思えない演技を披露していて、正直驚いた。このときトム・ホランドは、15歳ぐらいだろうか。母と言い争いながらもダニエル少年を瓦礫の山から救助したルーカスが、父親と再会出来て喜ぶ少年を病院内で見詰めるシーンがいい。離散した家族をめぐり逢わせようと名前を聴きだし奔走するシークエンスと共に、心温まる脚本の良さ。そして弟のトマスとサイモンふたりに再会するクライマックスの一つに観る、この子役たちの上手さ。お涙頂戴と分かっていても、そこまで持っていく展開と演出の作為が自然だし、ユーモアもある。父親ヘンリーのユアン・マクレガーは、見せ場が少なく全体に抑えた演技で悪くは無いが、子役たちに主役を譲った形になった。ゲスト出演のジュラルディン・チャップリンが印象的な役割で、短くも存在感を示す。

イギリスの俳優をキャスティングして英語の台詞を使用したスペイン映画で、スタッフはスペインの人たち。どちらにしても子役の扱いが巧いのは、これまでの長所から予想できるが、それが作品の良さとなり、映画のテーマを素直に伝えてくれる。ワッツとホランドの名演が、感動と衝撃と共に心に残る佳作でした。

Gustav