劇場公開日 2013年8月9日

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パシフィック・リム : インタビュー

2013年7月22日更新
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ついに大スクリーンで実現した
ギレルモ・デル・トロ監督の“子どもの頃からの夢”

3年の歳月をかけた渾身のSF超大作「パシフィック・リム」を引っさげ、同作にふんだんに取り込んだアニメや特撮映画モチーフの母国=日本に降り立ったギレルモ・デル・トロ監督。独特の世界観で高い評価を集める鬼才監督が、作品に込めた熱く真摯な思いを日本公開直前に語った。(取材・文・写真/黒豆直樹)

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「アイデアブックなんだ」。前日の会見の際も抱えていたノートの存在について尋ねると、ギレルモ・デル・トロは懐から1冊のノートを取り出した。備忘録のようなものかと思いきや、広げられたページを見て驚く。そこには芦田愛菜がひとりで街に取り残される場面のイメージと共にびっしりと注釈がつづられている。「こっちはルーブル美術館で見た紋様で、(劇中の)パイプ群の絵柄に使用してるよ。これは日本で買ったキャンディのシールだね(笑)」。「パシフィック・リム」の魅力は何と言っても大迫力の映像とスリルと興奮に満ちた物語だが、それを陰で支える緻密に張り巡らされたディティールが、めくられるノートのページから垣間見える。

海底から突如出現し世界中を蹂躙(じゅうりん)する巨大な“KAIJU(=怪獣)”と、この脅威に立ち向かうべく人類が開発した“イェーガー”と呼ばれるロボットの戦いが、最新鋭の映像技術によって描き出される。企画が動き出したのは3年前。だがメキシコに生まれ「鉄人28号」や「マジンガーZ」「ウルトラマン」「ゴジラ」を見て育ち、“オタク”を自認するデル・トロ監督にとっては「子どもの頃からずっと撮りたいと思い続けてきた夢」だった。彼を突き動かしているのは、悪役であるはずの怪獣への愛! 本作を「怪獣とそれを生んだ日本へのラブレター」と公言する。

「怪獣は自然界や異星からやって来た様々なものを象徴する存在。僕にとってはある種の“言語”とさえ言える。西洋には怪獣を愛する文化はないけど、日本にはそれがある。ゴジラとキングギドラの対決でも、多くの人が僕と同様に(ゴジラだけじゃなく)キングギドラのことも愛してる。善悪やモラルのジャッジではなく、そこにあるのは愛なんだ!」

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怪獣たちを倒すために開発されたイェーガー。そのデザインや設定にも監督の緻密かつ強い思いが反映されている。例えば兵器の開発や軍事作戦がハリウッド映画にありがちなアメリカ一国によるものではなく“地球防衛軍”さながら、世界各国の協力で展開するというのも特徴。イェーガーのデザインからパイロットの人間性に至るまで強烈な個性が散りばめられている。

「美意識というのは時に政治的な意味やイデオロギーを帯びてしまうもので、クールなロボットは軍事力のコマーシャルのように映ってしまうけど、僕はそれを避けたかった。僕が見せたいのは“ロマンティック・クレイジー・アドベンチャー”さ(笑)。新しいオタク・ジェネレーションとして軍事的なメッセージではなくヒューマン・メッセージを伝えたかったんだ。それから、アメリカ映画ではエイリアンたちはみんなニューヨークの地図しか持ってないみたいだけど、そんなのおかしいだろ(笑)? 登場人物たちが違うカラーと信念を持っているさま――ある者は賢く、ある者は自己犠牲の精神、別の者は勇気を持っているというのを描きたかった。みんな傷や欠陥を抱えているけど、力を合わせればアポカリプス(=黙示録/そこで語られる終末)を食い止めることができるんだ」

イェーガーが2人以上のパイロットにより操縦されるという設定は、監督が「譲れない絶対条件として最初に決めたこと」だという。パイロットの神経をシンクロ(同調)させることでロボットを操るというのは、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の設定を思わせるが……ここにも監督の様々な意図が隠されていた。

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「映画のテーマは信頼。同じロボットに乗ったからにはどんなに仲が悪くても互いを信頼しなくちゃいけない。我々人類もまた、ひとつのロボットにみんなで乗り込んでいると言える。それは痛みや反応を共有することでもある。主人公のローリー(チャーリー・ハナム)は兄をなくした喪失感を持っているけど、マコ(菊地凛子)とシンクロした時に彼女の記憶を共有し、自分以上の哀しみと喪失を味わった人がいると知る。そこで信頼が生まれ、彼女を守ろうとするし、それは自分自身を救う行為でもあるんだ」

度の強いメガネの奥で瞳をキョロキョロと動かしながら、時を惜しむようにまくしたてるデル・トロ監督。開いたノートが示しているのは彼の脳内のごくごく一部に過ぎない。ぜひ大画面で形となった彼の夢を体感してほしい。

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