劇場公開日 2012年6月9日

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キリマンジャロの雪 : インタビュー

2012年6月6日更新
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ロベール・ゲディギャン&アリアンヌ・アスカリッド
マルセイユの社会派監督が描く、人情家夫婦の良心の物語

5月の選挙で17年ぶりに社会党党首が大統領となったフランス。マルセイユを舞台に労働者の目線から描いた作品で知られるロベール・ゲディギャン監督の最新作は、リストラが発端となった事件に巻き込まれた人情家の夫婦を描き、良心や人と人とのつながりから生まれる力を観客に訴えるあたたかな人間ドラマだ。フランスのケン・ローチと呼ばれ、山田洋次監督が“わが友”と呼びかけるゲディギャン監督と妻で女優のアリアンヌ・アスカリッドが来日し、作品や社会問題について語った。(取材・文・写真/編集部)

5人の子どもを抱え、生活苦にあえぎながらも孤児を引き取る漁師の夫婦を描写したビクトル・ユゴーの長編詩「哀れな人々」からインスパイアされた本作は、最近の日本公開作ではアキ・カウリスマキの「ル・アーヴルの靴みがき」での好演が記憶に新しい、ジャン=ピエール・ダルッサンが、アスカリッドと共に人間味あふれる熟年夫婦を演じる。

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ダルッサン、アスカリッドともにゲディギャンの作品の常連だ。なじみの俳優を使う理由を「映画を作る時の仲間は、演劇の一座のように捉えています。ずっと彼らと作品をつくり続けることが、私にとっては当然のことなのです」と断言。映画づくりが容易でなかった時代から苦労を共にしてきた仲間だからこそ、今も共に仕事をすることが必要なのだと説明する。

労働者のために尽力したフランス社会党創立者のジャン・ジョレスを自らのヒーローとし、労働組合の委員長として闘いの人生を歩んできた男ミシェルは、信念を持って映画を作り続けるゲディギャンの姿にも通じるものがある。「私も闘ってきました。私の映画に出てくる主人公たちは、その時その時の自分たちの年齢と同じで、私自身の多くが投影されています。政治的な意識や社会に対する見方が反映されていますし、何よりもその時の自分の感情や気持ち、精神状態がそれぞれの主人公の中に見出されると思います」。

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劇中ミシェルと同じタイミングでリストラにあった若い同僚の姿を通して、高い失業率、生活費目当ての犯罪、若いシングルマザー……と日本以上に社会的に弱い立場で生きる若者の貧困が顕著なフランスの現代社会が見てとれるが、厳しい現実を突きつけながらも、ゲディギャンは希望に満ちあふれたラストシーンを描いた。

「革命というものは、個々人の小さい行動がのちに社会に影響を及ぼし、それがさらにだんだん広がりを持っていくということだと思うので、そういう意味においては私の望んでいることが映画の中に描かれていると思ってください。小さい水の流れが大きな川になり、そして海になるという考え方です」

長年ミシェルを支えてきた妻のマリ=クレールは、たとえリストラにあったとしても夫の生き方に誇りを持ち続ける。信念を持つ夫を支える女性として、アスカリッド自身の生き方にも重なる部分があるという。「彼女との共通点は、現状に甘んじることなく常にいろんなことに対して反骨精神を持ってきた部分です。人生は誰に対してもたった1回、それであれば、自分の気持ちの動く方向に行って何が悪いのでしょう」。

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インタビューは大統領の決選投票直前に行われた。ゲディギャンは「左派にとって良い結果が出れば70年代の時の様な社会のつながりがひょっとしたら築けるかもしれない。そういう気がします」と改めて政治的な立場を明らかにする。

新たにフランスの顔となったオランド大統領は、2025年までに原子力発電へ依存率を現在の75%から50%以下にすることを公約として掲げたが、原発大国フランスでは福島の事故報道から反原発運動が高まったという。アスカリッドは「すべてにおいて言えることですが、原発事故の問題は貧しい人たちに対する被害が一番大きいと思うのです。どんなことでも、富める者よりも貧しい人たちの被害が大きいということを認識してほしいです」と力強く語った。

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