劇場公開日 2012年4月7日

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コーマン帝国 : インタビュー

2012年4月5日更新
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“B級映画の帝王”R・コーマンが指南する、損をしない映画の作り方

名監督として、敏腕プロデューサーとして長年ハリウッド映画界をけん引してきた“インディペンデント映画の神”ロジャー・コーマン。そんな伝説の男の軌跡をたどったドキュメンタリー「コーマン帝国」(アレックス・ステイプルトン監督)が、公開を迎える。1986年の東京国際ファンタスティック映画祭以来、25年ぶり4度目の来日を果たしたコーマンが、映画製作から人生観までを語った。(取材・文・写真/山崎佐保子

これまで監督として50本以上、プロデューサーとして400本以上の作品を手がけてきたコーマン。自伝「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか」にあるように、奇抜なアイデアでヒット作を連発し、効率よく確実に利益を上げてきた。トレンドにも常にアンテナを張りめぐらせており、「『アバター』は成功例だが、3Dで失敗している映画は数多い。メガネなしで体験できる環境が整えば、状況は大きく変わってくると思うね。実は私も現在、3D映画を製作中で、初日だけ現場をのぞいてきたよ。映画というのは、初日をうまく乗り越えられれば半分は成功したようなものだからね」と不敵に笑った。

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ジャック・ニコルソンをはじめ、フランシス・フォード・コッポラロバート・デ・ニーロピーター・フォンダマーティン・スコセッシら、“コーマン・スクール”から巣立っていった映画人は数知れず。「若手発掘の基本は3つだ。まず1つ目は知的であること。運が良ければ誰でも1、2作は成功させることができるけど、長いキャリアを積み上げていくには知性が必要不可欠になる。2つ目は一生懸命に仕事を全うできること。映画作りは大変な労力を伴うからね。そして3つ目はクリエティブであること。これは一番手に入りにくいものだ。私の場合、まずはアシスタントとして雇い、一緒に仕事をしながら彼らの才能を見抜いてきたよ」と巨匠を育てあげる秘けつを教えてくれた。

そんなコーマンのドキュメンタリー製作を熱望した者は多いが、ひとりの新人女流監督にメガホンをたくした。「会った瞬間に知的な女性だと思ったし、うまくやってくれると直感した。僕に対する分析もフェアで満足している。もちろん自分が撮れば違うものになったと思うけど、彼女に任せてよかったと思っているよ」と話し、「昔も今も大きな違いはない。どの時代にも若くて才能があって野心的な人はいるのさ」と楽観的だ。

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さらに、コーマンは世界中の名画をアメリカに輸入するなど配給業にもぬかりがない。「黒澤明作品など、日本の映画もたくさん配給してきたよ。日本のサブカルチャーにも興味があって、アメリカ発祥の“コミック”が日本に渡り、“漫画”というユニークでオリジナルの文化に発展したことは非常に面白いね。伝統的なホラー映画である『リング』(中田秀夫監督)も素晴らしい出来だった」と日本文化への造詣も深い。しばしば「B級映画の帝王」と称されるが、「アート系映画を作りたいという気持ちはずっとあって、『侵入者(原題:The Intruder)』(62)という南部の人種差別についての映画を撮ったことがあるけど、興行的には成功しなかった」と、社会派映画を成立させることが困難だった当時のアメリカを振り返る。一方で、「アート系作品は観客が少ないから、政府の助成金などをもらって製作コストを下げる必要がある。そして何より監督の才能だ。このジャンルは前例が通用しない。過去の名作にこだわらず、どんどん新しいものをつくっていくしかない」と意気込む。そして、「映画業界は大きく変わりつつある。昔は直接映画館に配給できたから、今よりずっと大胆になれたし冒険もできた。今はDVDやインターネットの時代だからそういう道も模索していかなければ」とどんな状況にも前向きだ。

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2009年には米アカデミー名誉賞を受賞するなど、その業績は高く評価されている。「正直、低予算映画製作者には絶対くれない賞だと思っていたよ(笑)。セレモニーにはこれまで一緒に仕事をしてきた多くの友人が駆けつけてくれて、彼らのスピーチには心の底から感動した」と述懐する。同席した、妻であり仕事のパートナーでもあるジュリー・コーマンも授賞式をこう振り返る。「ロジャーは、自分はアウトサイダーだから絶対無理だなんて言っていたけど、『ロジャーをストーキングしてまで映画を撮らせたいんだ』と言うクエンティン・タランティーノらたくさんの友人のサポートがあって名誉ある賞をいただけた。ジャック・ニコルソンがシャンパングラスを掲げて、『ありがとうロジャー、誰も信じてくれなかった僕を信じてくれて』と言ってくれたときは本当に感動したわ」

御歳85歳のコーマン、映画製作を始めて50年以上の月日が経つが、立ち止まるきざしはなく現在も映画を作り続けている。「監督業はとても魅力的だけど、私は少し年を取りすぎてしまったようだ。これからはプロデュース業に専念するけど、映画製作を愛しているからできる限りやり続けるよ。やめるなんて考えられない」と生涯現役を誓った。

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