劇場公開日 2012年9月8日

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「いいシーン、いい台詞、いい役者のオンパレード。」夢売るふたり 苺こんぺいとうさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5いいシーン、いい台詞、いい役者のオンパレード。

2013年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

観終わったあとは、寝付けない映画です。
非常に映画的で、情熱的で、知的な、野心作であることに間違いはありません。
とりあえず、見て欲しい作品であります。
観終わったあとに、ああだこうだといつまでも頭から離れてくれないのは、やはり西川作品です・・・。
育児中なので映画館には行けなかったのですが、夫と一緒に見たかったので(笑)、夫婦で見ました。

(以下、少しネタバレ)

それを踏まえて、傑作になれなかった失敗作であったとも、言い換えられる作品でもあります。
『何が言いたいのか分からない』という感想が見受けられますが、それは、いいシーン、いい台詞、いい役者が多過ぎるに加えて、クライマックス(夫婦間であったり貫也と女たちとのシーンであったり)が幾度も差し込まれるので、どこに焦点を当てて観ればいいのか迷わせるのです。
脚本も監督自身が書かれているので、削れなかったのでしょうね。しかしこのテーマで、ほぼラストが想像つくにも関わらず、二時間以上引っ張るのはムリがあったように思います(『ゆれる』よりも20分弱長い)。

で、この映画では、なんだか色々なメッセージが語られちゃうのですが(それが鼻につくという人もいるでしょう。私も、カラッとブラックだった『蛇イチゴ』が好きだったなあ)、里子がモノローグのようにつぶやく「他人の人生に乗っかってると、卑怯な生き方になるよ」が西川監督の、映画を通じて女性に対するメッセージと受け取りました。
不倫、恋愛、結婚、人と同じように何かに乗っかってかないととやりきれないながらも、そんな中でもがく女性たちへのエール。

ただ、後半、ラストに向けて、夫婦関係の機微(詐欺を続けているうちに、2人の方が詐欺みたいな仮面夫婦になってしまった)という重く興味深いテーマと、↑のメッセージの持つフェミニズムが、里子という1人のキャラクターの中で平行して展開してしまったことで、里子の持つマグマのようなエネルギーが二分化してしまい、それに加えて貫也と女たちの一悶着やら子供までが絡み、ストーリーが破綻してしまったように思います。そしてラストを地に足を着けて働き始めた里子のまなざしに一気に収束させたのは・・・うーーん。それこそ役者に乗っかり過ぎに感じてしまいました。
(ロバートアルトマンなら、点でしかない女たちを線で繋げただろうし、スコセッシなら里子と対になるサブキャラを据えるとか、映画として構築しただろうな・・・別に彼らに倣うことはないんだけど、いいシーンのオンパレードだけでは映画にならないことを残念に思う。西川監督が大好きなだけに)

ちなみに私は、青空を番(つが)いの鳥が飛ぶのを眺めながら妻を想う貫也と、朝まだ人が夢を見ている時間に働き一人で生きることを選んだ里子、に、対照的なものを感じました。

夫婦は元に戻らないと思う。どうです?西川監督。

苺こんぺいとう