劇場公開日 2012年9月8日

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「夢見たふたり」夢売るふたり マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0夢見たふたり

2012年9月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

火事で焼き出された夫婦の顛末を語った作品。
妻の里子は現実的で、とりあえず何でもいいから食べて行こうとする。だが夫の貫也は仕事をより好みし旧友には店が失くなったことも言えず、見栄だけが先行する。

ひょんなことから夫の意外な才能を見つけた里子が貫也を煽って結婚詐欺をはたらきはじめる。
騙された女たちが料亭のカウンターに並ぶシーンがある。
皆、一様に貫也を恨んだりはしていない。むしろ“いい夢”を見させてもらったとあっけらかんとしたものだ。殺伐とした世の中、人生にはお金で買えないものがあると言わんばかりに、見ず知らずの女たちが一人の男を巡って話に花が咲く。
ただし、たった一人の女を除いては・・・だ。この女が後半の話の行方を左右する。

西川美和監督は相変わらず着眼点が面白い。いっときの伊丹十三のようだ。
ひとつひとつのシーンが、取材や資料に裏付けされたようにきっちり描き込まれる。例えば料亭の火災のシーンにしてもツッコミどころがないわけではないが、それを許さないだけの説得力をもつ。
ドラマに挿入されるさりげないカットも、日常の観察眼の鋭さを窺わせる。タイトルバックでのトレーニング中の女性の肩から汗が湯気となって立ち昇るカット。あるいは貫也がアパートの一室でボーっとしている時の廃品回収車から流れる音などだ。

だが、今作はあまりに役者を揃えすぎたせいか、話がだらだらと間延びして西川監督本来のキレのよさが影を潜めてしまった。
西川組ができるのも結構だが、観ていて何が起こるか分からないフレッシュ感は失わないでほしい。
今回は松たか子の演技に助けられた恰好だ。

店を持ちたいという夫の夢を叶えるため、資金調達のためと夫の情事に目を瞑る妻。
にも関わらず立地条件や内装に夢をつのらせエスカレートしていく夫。悶々とする想いを抱きながら、ひたすら夫の帰りを待つ妻。
さらには標的であるはずの女に情を示す夫についにキレる妻を松たか子が鋭く演じる。
ラスト、里子の哀れみと怒りがない交ぜになった目が語る。
「あんたが夢を見たから我慢してきたのに、なにやってんだか」と。
里子が見てきた夢は、夫が夢を叶えることだった。

マスター@だんだん