劇場公開日 2011年10月22日

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東京オアシス : インタビュー

2011年10月17日更新
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小林聡美&加瀬亮、“横向き”で垣間見えた本音

「また呼ばれたって感じですね(笑)」とはにかみながら、新作映画にいとしい言葉をおくる女優・小林聡美。“また”という言葉で語りはじめるのは、「かもめ食堂」「めがね」「プール」「マザーウォーター」の流れを組む新作映画「東京オアシス」のこと。同作は、東京に暮らす女優トウコが、ある日、自分の中にある矛盾に気がつき、我慢できない息苦しさから脱出を試みるという、自分探しの旅ともいえる物語。そこには、逃げ出すことで見えてくる何か、誰かと出会って見えてくる自分──現代人の誰もが一度は感じたことのある焦燥感が映し出されている。トウコを演じて小林の中に芽生えた気づきとは何だったのか。「めがね」以降の作品に出演する加瀬亮とともに、「東京オアシス」の世界を紐解いてもらった。(取材・文/新谷里映、写真/堀弥生)

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「かもめ食堂」「めがね」「プール」「マザーウォーター」、そして「東京オアシス」。一見シリーズものに見える5作品だが、小林が主演という共通点があるだけで、実はシリーズではない。今作は新しい2人の監督と3人の脚本家と4人の俳優によって構成されるアンソロジーのような作品であり、脚本を初めて手にしたときに小林が感じたのは、「今まで以上にシンプル」であることだったと明かす。

「以前に比べて、トウコと誰かの1対1という構図のシーンばかりだったので、(物語の構成が)よりシンプルになっているなと思ったんですよね。だから、ちゃんと向き合わざるをえない役柄でもあって(笑)」。フィンランドのヘルシンキ、南の小さな島、タイのチェンマイ、日本の京都という、東京ではないどこかを舞台にしてきた過去作とは異なり、今回はタイトルにもあるように東京が拠点となっていることも新鮮だったそうで、加瀬の「今までの作品は、場所が焦点だったのですが、今回の作品は人が焦点になっていて、今まで以上に心情が浮かび上がった作品となりました」という言葉が物語っている。

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心情に焦点をあてたということは、芝居も深かったということだろうか。互いに「安心して芝居を投げかけられる相手」と称えるふたりは、トウコとナガノが正面ではなく横並びで会話していることに、人と人とのかかわり方のヒントを見つけ、加瀬は「今までにみたことのない小林聡美さんの顔を見ることができました」と語る。

「これまで小林さんが演じられたキャラクターは、心の中で何かを抱えてはいるけれど、それをほんのりとしか感じさせなかったと思います。しかし今回は、さらっと演じていても心の力が感じられました。それと、いつも向かい合って演じていたのが、今回はほぼ横位置での芝居です。対面していない方が心情的に向かい合っている気がするのも不思議でした」。それは小林も同様に感じていたことで、「向かいあうと警戒心が無意識に出てくるもの。だから、ご飯を食べるときも、正面よりも横に並んだ方がリラックスできたり、本音を言えたりするじゃないですか。横に並ぶことで、空気感が違ったと思いますね」とうなずく。この日も、横に並んで取材を受けていた2人。今まで聞いてみたかったけれど、なかなか聞けずにいることは? という質問を投げかけると、「加瀬くんはこの映画に参加することは好き?」「なぜですか?」「本当はもっと激しいドラマティックなものが好きなんでしょう? まあ、試練だと思ってよ」「まあ、修行だと思っています(笑)」。やはり、真正面よりも横に並んでいる方が相手の心をのぞけるのかもしれない。

ある夜、自分の置かれた立場から逃げ出すことを決めたトウコは、見ず知らずのナガノが運転するトラックに撮影の衣装のまま乗り込む。ある夜には映画館でかつての友人と再会し、ある昼間には動物園で若い女性と出会う。

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「とあるきっかけや、ちょっとアクションを起こすと違ったことが始まる、そういう可能性って面白い。でも、自分がトウコのような状況だったとしても、見ず知らずの男性の車には乗らないですね(笑)」。一方、加瀬は「その時の状況にもよりますが、おそらくトウコさんのような女性でしたら乗せると思います(笑)」と話す。自分だったら……と登場人物に自分を重ねてしまうのも、この作品の魅力のひとつだ。そして、そこから2人が導き出したテーマは、「人は誰かに助けられるもの。誰かが助けてくれる」ということ。また小林は、トウコの目に映る東京を通じて、慣れ親しんだ街についてもう一度考えたという。

「撮影をしながら、ああ、自分の居場所は東京なんだなと意識したんですよね。今までは、日常とは切り離されたところで映画を作ってきたので、撮影中、東京のことはとりあえず置いて、その世界に入っていたけれど、今回は東京で撮影して東京に帰るので、東京で暮らしているんだなと。東京って……、と考えるようになりましたね」。横浜出身の加瀬も、「高速道路から夜の街が目に映ってきたときは、きれいな街だなと感じました」と思いを馳せる。そして、最後にトウコとナガノのどの部分が好きか聞いてみた。

「僕が好きなナガノのセリフは、(ドライブスルーできつねうどんを食べながら)ひもかわは、きしめんやほうとうとは違います。と、トウコさんに念を押すシーンがあるのですが、そのシーンで、彼がこだわっているのはそこなのか? っていう、そのしょうもなさが好きでした(笑)」(加瀬)

「私は、トウコがいろんな人と出会うことによってちょっとずつ変わっていって、最後には、前に進んで行こうとする姿ですね」(小林)

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