劇場公開日 2010年11月6日

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「想像力が人生を拡げて豊かにするんだね。」100歳の少年と12通の手紙 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0想像力が人生を拡げて豊かにするんだね。

2021年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

楽しい

幸せ

心の奥に、陽がともったような、温かさが残る。
クリスマス・新年を迎え、自分の生き方について考える時期に繰り返しみたい映画です。

極上のファンタジーを観た気分になります。でも、奇想天外な夢物語ではありません。
オスカーとローズ夫人が想像力を膨らませて紡ぎ出したファンタジー。
こんな風に想像力を膨らませて、見方を変えるだけで、世の中は、人生はこんなに豊かになるのかと気づかされる映画。

映画の原題・英語名は、拙い語学力を駆使すれば『オスカーとローズ夫人』。決して難病を前面に出したものではありません。監督が著した原作の題名がこの映画の邦題に近いらしい。
 原作は手紙の文体で書かれているらしい(未読)。でも、原作者である監督が映画化した時に焦点を合わせたのは、オスカーとローズ夫人を中心にした人々の関係性。原作に忠実に映画化したくなるだろうに、”映画”という表現に合わせてエッセンスをそのままに構成し直すなんて、なんてすごい才能の持ち主なんでしょう。

人と向き合うことにマニュアルは通じません。それは二人で手探りの中で作り出していくものです。
 悪戯しても叱られない。一見、優しい対応に見えて、なんて残酷なこと。生きているのに、幽霊のように、いないこととして扱われていることと同じこと。
 愛する息子が死ぬということ、それは辛いことに違いない。でも、子どもの気持ちに向き合うよりも自分の気持ちを優先してしまう親。最近多いですね。
 もうすぐ死ぬかもしれないけど、まだ生きているオスカーはどうしたらいいのでしょう。

 これは難病ものの話だけど、難病じゃなくても、こんな風に子どもの心が大人から無視されてしまっている状況はいたるところで見受けられます。
 そんな中で、オスカーは、ローズの助けを借りながら、彼なりの精神発達を遂げていきます。人を好きになることが愛することに変わり、人への思いやりに繋がり、最期は…。二人でいたからこそできたこと。そんな彼を導いているはずのローズもまた…。

なんて展開をかくと、説教っぽい話に見えますが、精神発達を遂げるとはいえ、本当のオスカーはまだ10歳。日本でなら小4か5年生。ちょっぴり生意気盛りになり、汚言を好み、プロレス等の強いものに憧れる年頃です。悪戯だってします。そんな生身の10歳と同じ目線で付き合うローズとのやりとりが、時に苦笑したくなるような爆笑物として、時に活き活きと、時にファンタジックに、時にロマンチックに、時にとっても現実的でシリアスに描かれます。甘いだけではありません。

そしてラスト。主治医がぐっと物語を締めてくれます。

面白おかしいエピソードの中で、人生とは、人と向き合うとは、人を助けるとは、ということにしみじみ感じ入る映画です。

体が動かなくなったとき、でも想像力だけは駆使できます。
その時、私はどんなふうに想像を拡げるのでしょう。運命を呪うのか、感謝できるのか。
ちょっとだけ楽しみなりました。だって、オスカーとローズがついていてくれるから。

とみいじょん