劇場公開日 2011年6月24日

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「それぞれのエピソードが打ち消し合って、感動も恐怖も弱めてしまうことになったのではないかと思います。」SUPER 8 スーパーエイト 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0それぞれのエピソードが打ち消し合って、感動も恐怖も弱めてしまうことになったのではないかと思います。

2011年6月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 SF大作にありがちなアメリカ軍を中心とした描写でなく、あくまで8ミリ映画を製作する少年たちを軸にストーリーが進んでいきます。その点では、『リトル・ランボーズ 』に似ている作品でした。
 エイブラムス監督自身の映画少年だった頃の思い出。そして、その頃に抱いたスピルバーグ監督への尊敬の念がオマージュとなって、噂通り随所に溢れている作品でした。

 SFとしての仕掛けは面白く、スピルバーグが多用してきたモンスターの正体を小出しに露出して恐怖感を煽っていく展開のため、飽きるところはありません。しかし『E.T.』と比べて、感動するほどでもなかったのです。
 スピルバーグの過去の作品を織り込むのはいいのですが、スリラーやパニックものから、ヒューマンなものまで一つの作品に詰め込みすぎたので、恐怖体験を味わうアトラクションムービーなのか、うたい文句通りの感動作なのか、いくらスピルバーグ由来のネタでも、それを全部取り込んだら、それぞれのエピソードが打ち消し合って、感動も恐怖も弱めてしまうことになったのではないかと思います。

 肝心の8ミリで映画を撮り始めたという、映画人のルーツを描くという点でも、『リトル・ランボーズ』の方が感動的なんですね。それは、主人公がどうして映画にはまっていったのかが、きちんと描かれて、観客の共感を得られるからです。本作では、主人公のジョーも事故で母親を失った淋しさと、8ミリ映画に打ち込んでいくところが描かれていないのです。
 凶暴な宇宙人によるパニックを伏線に描きつつ、あくまでメインは少年たちの友情と恋に置くとしたら、もっと監督自身のエモーショナルな少年時代の映画に対する思い入れをピュアにぶつけても良かったのではないかと思います。

 ところで、伏線に当たる貨物列車から逃亡した凶暴な宇宙人については、ジョーズや怪獣を思わせるような、正体不明の存在が人間をさらっていくという、現代ではお決まりの描写を経て、正体が明らかとなっていきます。「スピルバーグ」にこだわったために、昔見たような展開となってしまいました。ちょっと変わった趣向があってもいいのではないかと思います。
 但しこの宇宙人が凶暴になるのには、訳ありだったという事情が隠されているところが本作最大の秘密なんですね。それを少年たちが突き詰めて、宇宙人の「事情」に同情するところが『E.T.』みたいなシーンに繋がっていきます。
 本作最大の感動シーンが不発に終わったのは、宇宙人の「事情」が詳しく描かれていないことです。どんな虐待を受けて、悔しい日々を過ごしていたのか。その孤独な心情と母親を事故で失ったジョーの気持ちをうまくシンクロさせていたら、もっと泣けてくる名シーンが誕生したのではないでしょうか。

 それと、ラストにはちらりと、母親が勤務した工場での事故が、実はアリスの父親が仕組んだ人災ではと思わせる台詞が語られます。これをもっとはっきり打ち出して、母親を殺した犯人の娘を好きになってしまった主人公の葛藤を描いても良かったのでは?
 そうするとジョーの父親とアリスの父親の双方が、二人の交際を否定して遠ざけようとしたのも、すんなりと納得できます。まして、ジョーの父親は保安官代理で人を疑う仕事をしているので、本来ならもっとアリスの父親対して、執拗に疑いをかけるシーンがあっても可笑しくはなかったでしょう。そこをきちんと押さえておいて、工場の事故すら吹っ飛ばす大事件に、二人が巻き込まれ助け合うなかで、いつしか疑いを水に流し和解し合ういう流れが感動を呼び起こすことができたと思います。

 最後に、アリス役のエル・ファニングの演技力は、少年たちの撮影していた8ミリ作品中で遺憾なく発揮されてはいました。ただ本編の方で、もう少し彼女の演技力を活かすシーンがあっても良かったのではないでしょうか。いささか宝の持ち腐れに見えました。

 ところで、少年たちの撮影した作品はエンドロールで、披露されるので、席を立たないで最後までご覧ください。ゾンビ映画なのに、なかなか笑える傑作に仕上がっていましたよ。

流山の小地蔵