太平洋の奇跡 フォックスと呼ばれた男 : 映画評論・批評

2011年2月8日更新

2011年2月11日よりTOHOシネマズ有楽座ほかにてロードショー

「硫黄島」2部作のトーンを引き継いだかのような、日本兵による「最前線物語」

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太平洋戦争末期のサイパン島を舞台に、大場栄大尉(竹野内豊)率いる陸軍歩兵連隊と絶大な兵力を誇る米軍との熾烈な戦いを描く実話の映画化である。この知られざる玉砕戦の一部始終を日米双方の視点から描くという試みはあらかじめ、ややハードルが高過ぎたのではないだろうか。

英語が飛び交う米軍のパートはチェリン・グラック監督が担当し、日本人側のパートは平山秀幸監督が演出しているが、本来ならクリント・イーストウッドの「硫黄島」2部作のような截然(さいぜん)たる構成にしない限り、どうしても日米の描写のバランスをとることに腐心してしまいがちなのだ。

迫力ある戦闘シーンも含め、全体の色調を極力アンダーに抑え、亜熱帯の鬱蒼としたむせかえるような暑さではなく、どこか寒々とした印象を与えるのは効果的である。この沈んだ静謐さを強調したルックは「硫黄島」2部作のトーンを引き継いでいるようだ。

平山監督は、大場大尉を悲壮な皇軍精神に殉じる堅物ではなく、巧緻な戦略によって米軍の裏をかくしたたかな抵抗者として造型しているが、恐らく<小隊もの>の傑作「最前線物語」を参照したと思われる。気が触れてしまった兵士(柄本時生)や出産した赤ん坊に<希望>を託すエピソードに顕著だが、サミュエル・フラーが提唱した<戦争の栄光は生き残ること>というモラルが通奏低音となっているのだ。惜しむらくは、竹野内豊リー・マービンのような強烈な父性と敗残の果ての屈折した傷つきやすさ、複雑な陰翳が感じられないことである。

高崎俊夫

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