劇場公開日 2010年12月17日

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「父の名残(レガシー)を超えろ。“完全”からの逃亡。」トロン:レガシー 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5父の名残(レガシー)を超えろ。“完全”からの逃亡。

2010年12月24日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

まず不満点から挙げてしまおう。

最大の不満は説明の拙い部分がチラホラ見受けられること。
創造主ケヴィンは、あれほどの力を持ちながら
何故これまで脱出を試みなかったのか?
強敵リンズラーの最後の行動はあまりに唐突過ぎないか?とかね。

次にアクション演出。どのアクションシーンもケレン味はあるが、
烈しさと緩急に欠ける。映像美に加えて熾烈なアクションも
期待したのは贅沢ってもんだろうか。

だが僕はこの映画が好きだ。
『ブレードランナー』『時計じかけのオレンジ』(ズース!)そして
前作『トロン』と、過去の革新的SF映画の血を受け継ぎつつも、
決して単なる模倣に収まらないその世界観。『映像革命』と呼ぶのは
大袈裟だし、3D効果も非常に薄く感じるが、それでもこの妖しく
魅惑に満ちた光の世界はクセになる。音楽と映像の見事なシンクロ
からくる高揚感に至っては、先に述べた名作群に勝るとも劣らない。

そして色々叩かれてはいるが、僕は本作の物語にも大きな魅力を感じる。

主人公サムが越えるべき壁として立ち塞がるのは、
『完全な世界を』と望んだかつての父親の名残(レガシー)と、
彼が作り出した世界(システム)。
憎むべき若き父との対決。老いた父との和解……
言いたい事は分かってもらえると思う。

そして“不完全”というキーワード。
クライマックスでケヴィンと対峙したクルーは、
有害な要素として彼を即殺害すれば良い所を、
憎しみと哀しみの言葉をぶつけ、殴り掛かる。
その振る舞いはまさしく彼が忌み嫌っていた“不完全”な人間そのもの。
そう、完全を目指し続けた彼は、いつしか不完全なる人間に
近付きつつあったのだ。これは退化か、はたまた進化か。
それを思えばリンズラーが自分の意志を貫く為、絶対的な行動原理
ともいえる己のプログラムを打破する展開にも不思議と納得がいく。

完全な世界の創造に執念を燃やしていたケヴィンが、電子世界の
突然変異体ISOの出現に心奪われる展開も面白い。
現実でも人間は「ミスの無い世界を」と望んで機械や電子機器を
生み出したのに、今やその機械の動作やプログラムを不完全な
自分達自身=人間の姿に似せようと躍起になっているではないか。

物語を完全に掘り下げ切れなかった感はあるが、
この映画の映像そして提示する要素は、個人的に物凄く魅力的。
あと2回は観ないと気が収まりそうに無いです。

<2010/12/17観賞>

浮遊きびなご