劇場公開日 1984年5月19日

「満ちた妄想」キング・オブ・コメディ(1983) D.oneさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5満ちた妄想

2020年5月6日
iPhoneアプリから投稿

 映画史上最高のブラックコメディ。ひとつの作品を、幾つもの切り口から味わうことのできる傑作です。
 冒頭のシーンから感じる人々の熱量。そしてラストまで貫かれるエネルギッシュさ。やはりスコセッシの映画は熱に溢れています。
 パプキンとマーシャ、2人とも恐ろしい狂気を持っていながらも、全く正反対な性質を持ち合わせているように思えます。超人気コメディアンのジェリーに対して歪んだ愛情を持っているマーシャでも、彼女の考え方は実に現実的で、非常に冷静にジェリーに迫っていくのに対し、コメディアンを夢見るパプキンは常にフレンドリーに振る舞っているようでも、周囲の感覚とのズレと妄想癖による行動が彼の異質感と狂気を際立たせています。
 この映画のキャラクターが持つ、異常だけれども観る者を惹きつける不思議な魅力が全面に溢れている作品でした。また、パプキンの「妄想癖」という性質が、物語の解釈の幅を広げているのもこの映画の奥深いところですね。ラストのパプキンの成り行きは事実か、それとも妄想か。最後の解釈が広がってオチがひとつにまとまらないにも関わらず、嫌な後味にならない素晴らしさ、、大好きです。

D.one