劇場公開日 2010年2月5日

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「とても勇気づけられる作品。諦めなければ我々の手で世界は変えられるという熱い思いがこみ上げてくることでしょう。」インビクタス 負けざる者たち 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0とても勇気づけられる作品。諦めなければ我々の手で世界は変えられるという熱い思いがこみ上げてくることでしょう。

2010年1月22日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 舞台は南アフリカ共和国。ネルソン・マンデラが1995年のラグビー・ワールドカップを通して国民をまとめあげてゆく物語。
大統領に就任したものの、白人と黒人の深刻な民族対立が原因となる社会的混乱に対して、『一つの民族 一つのアフリカ』を貫いたマンデラ大統領の信念が素晴らしいのです。 その信念は、常敗集団だったラクビーチームを変えて、大方の予想を裏切り大会優勝という奇跡をもたらしました。

 ただ本作は、ダメチームが再建してサクセスを掴むというありきたりの話ではありません。ネルソン・マンデラが語る『インビクタス』とはこういうことなのだよということを描いて行くことで、イーストウッド監督は観客に、どんな逆境にも屈しない心の力の大切さ、ひとりひとりが魂の主人公であるのだと呼びかけた作品だったなのです。

 最近のイーストウッド監督作品のキーワードは、エンディングのテーマ曲に込められていることが多くなっています。『ジュピター』の旋律に合わせて、歌われた歌詞には、ベストを尽くした人々は、国境もなく、民族の違いもなく、等しく勝利者なんだと歌い上げます。それを実践し、実証し得た人物として、イーストウッド監督は、ネルソン・マンデラを取り上げたのだと思います。
 これまでどちらかというと、絶望的な状況の中で、それをどう受け止めて神にすがるかという、現実に諦観していく作品が多かったイーストウッド監督のなかで、本作は不屈に闘っていく精神を描いていて、小地蔵としては意外でした。
 ただ、監督のどんな悪しき状況にも、揺るぎない信仰を求める気持ちは普遍のようです。マンデラがチームの主将に、明かした自らを支え続けてきた詩編の言葉は、『アフリカに神の祝福があれ』というものでした。
 信仰に裏打ちされた勝利への確信。マンデラが、キャプテンのピナールに伝えた勝利へのインスピレーションの中身は、信じるということでした。

 だから本作を見ていると、とても勇気が溢れてきます。それはたたみ掛けるように全編を通じて、観客に問いかけてくるのです。「私が我が運命の支配者、我が魂の指揮官である」と。
 大統領の気迫あるメッセージに、すっかり感化されたピナールは、大統領が本気でワールドカップの優勝を狙っていることを悟ります。そして感じたのです。これは単なるスポーツの勝敗だけでなく、国家の明日を導く使命なんだと。
 それからチームは変わっていったのです。どちらかと言えば、黒人はサッカーがメインで、ラグビーは白人のスポーツとして定着していたなかで、チームは積極的に地方を巡回して、地元の子供たちにラグビーの指導をしたりして、ワールドカップに向けた国民的関心を高めていったのです。
 そのピークが、ワールドカップでの試合風景でした、6万人のアルプススタンドが埋め尽くされたシーンは圧巻。チームの勝利に、黒人も、白人も分け隔てなく熱狂する姿は感動しました。
 その感動を上回る印象的シーンが、ピナールが大会開催中にチームのメンバーを率いて、マンデラが30年間閉じ込められてきた監獄を見学するところです。
 監獄の檻の中の狭さに驚くピナールにマンデラの、日々いのちの危険と面と向き合いながらも、屈することはなかったという言葉が被ります。
 『インビクタス』とは投獄中に心の支えにしていた詩編のタイトルで、『征服されない』という意味だったのです。マンデラが語る『インビクタス』の言葉の重みを感じさせてくれたシーンでした。
 きっと皆さんもこのシーンを見れば、混迷を深める現代にあっても、諦めなければ我々の手で世界は変えられるという熱い思いがこみ上げてくることでしょう。

ネルソン・マンデラを描いた作品では、『マンデラの名もなき看守』(2007年)がありました。過酷な30年の監獄生活を描いたこの作品よりも、その後の釈放されたあとのことを描く本作のほうが、マンデラの風雪を感じさせます。
 それは、マンデラを演じるモーガン・フリーマンがマンデラの心の内側から克明に、そのパーソンを再現していることです。
 その一挙手一投足に、マンデラの苦難と強い信念が息づいているのです。さすがにマンデラ自身が自分を演じるのはこの人と指名しただけのことはありました。

 ところで、本作での第3回ラグビー・ワールドカップは、1995年5月25日から6月24日まで、南アフリカ共和国で実際に開催されたもの。これまでアパルトヘイトの影響によりIRB主催大会から除名されていた南アフリカが初開催とともに初出場、そして初優勝を果たしたのです。
 今大会で日本はニュージーランドに17-145と、1試合最多失点の大会記録となる大敗を喫した。その試合結果は、本作の中でも劇中告げられると、会場から苦笑の笑いが・・・。日本チームも頑張って欲しいものですね。

流山の小地蔵