劇場公開日 2009年10月9日

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「しらっとしたアビゲイルの演技に、ネタバレ後驚かされました(^_^;)」私の中のあなた 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0しらっとしたアビゲイルの演技に、ネタバレ後驚かされました(^_^;)

2009年10月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 白血病の姉を救う目的の為だけに、試験管ベビーとして子供が創られたり、その子供が臓器提供をいやがって、母親を告訴するというあり得ない設定の物語です。
 けれども巧みな伏線により、あり得なさに命を吹き込み、ヒューマン・ストーリーに作り込みました。

 ポイントは3つ。まずは病の娘ケイトを救うためなら、どんな方法も厭わないで猪突猛進する母サラの存在。愛する家族のためなら当然という信念が、試験管ベビーまで作りかねないという説得力を生み出しています。
 また元弁護士という設定も、信念で突き進む彼女の性格を印象づけました。実の娘の告訴を自ら法廷で対決するという流れも納得です。

 そしてアナの冷静さ。母親を告訴している割には、普通に家族として普通に接しています。姉の犠牲になってきたと訴えてるのに、姉のケイトとは大の仲良しなんです。
 家族同士が法廷で争う骨肉の法廷劇が展開するはずなのに、アナは平然とし、物語はむしろケイトの過去にスイッチバックして、エピソードを描いて行きます。
 あり得ない設定に輪をかけるアナの冷静さに、なんで?と中盤では疑問だらけに陥りました。けれどもラストにその理由の全てが分かるとき、姉妹の結びつきの深さに感動しました。

 さらにケイトの覚悟の深さです。
 不治の病と知りつつ、その運命を受け入れて、死を覚悟しているケイトの覚悟もポイントです。だから、自分に臓器を渡そうとしないアナを責めたりしなかったのです。
 そんなケイトを印象づけるために描かれるのが病床で恋に落ちる同じ白血病患者のテイラーの存在。彼の死後ケイトにとって、死がテイラーと再会できる希望に変わります。ちょっと時間軸がはっきりしない中盤は、ケイトのエピソードを把握するのに苦労すると思います。
 けれども、テイラーと出会うシーンなければ、ケイトの気持ちがよく理解できなかったことでしょう。

 彼の死を通じて、永遠の生命を信じ、死が終わりではないこと語るケイトの悟り。それが描かれてこそ、妹がなぜ突拍子もない法廷闘争に臨んだのか。そして突進を続けてきたサラが自らの見落としてきたことを反省するだけの理由付けになったと思います。

 この3つのポイントが見事に融合して、あり得ない物語に、思いがけない意味をもたらせてくれます。
だからもう一度全てを知ってから見直すと、全然違った見え方になることでしょう。

 見ている観客も、こういうストーリーはちょっと辛いですね。姉のケイトも助けたいけれど、ずっと姉のために手術を受けてきたアナの辛さも分かります。愛情に順番があるはずはないのに、全てのプライオリーをケイトに注いで、アナの気持ちを見落としてしまったサラの気持ちも痛いほど分かります。“創られて”生まれてきた子供でも、家族は家族です。
 本作のテーマとなっている『家族』とは?考えさせられますね。

 それと死と病について。
 サラは、治療にこだわり病院側が用意したターミナルケアのカウンセラーを拒絶します。けれどもケイトは、植物人間にまでなって生き残ることを恐れていました。ママに殺されるとも。
 そんなケイトが、リスクを冒してまで海が見たいと希望し、ケイトの反対を押し切ってまで海に行くシーンは象徴的です。たとえ病気で長く生きることが出来なくても、「幸せな人生」を生きることができるのだというメッセージを感じ、心に沁みました。

 ところで法廷シーンでは、幼い子供には臓器の提供を拒否する判断が出来ないから、保護者の判断が優先することをサラは主張します。日本でも臓器移植法が成立して、本人の承諾がなくても保護者の判断で臓器摘出が可能になりました。
 サラと同じく子供の臓器を奪ってでも、延命させたいという親の気持ちは分かりますが、そういう方にも本作を見て、人の臓器を奪ってでも生き延びることだけが幸福だろうかと考え直していただきたいものです。

 キャメロンは難病に侵された娘を抱える母親を演じるにあたり、病気の子供やその両親の話を聞きにいって役作りをしたそうです。役柄同様に必要とならば、スキンヘッドにもなるなど体当たりしています。一見気の強そうで、ケイトを溺愛するばかりに周りが見えなくなってしまう母親としての弱さも感じさせてくれました。

 妹役のアビゲイル・ブレスリンはやはり天才子役。人に明かせない秘密を持ちながら、気丈に普通に装い、観客をもえっと驚かせるネタバレにつなげた演技はさすがです。
 そして見落とせないのがケイト役のソフィア・ヴァジリーヴァの迫真の演技。血吐きとか病でゲッソリとか、死を覚悟する表情などものっすごく良かったです。

流山の小地蔵