劇場公開日 2009年5月30日

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路上のソリスト : インタビュー

2009年5月29日更新

ロサンゼルス・タイムズの記者スティーブ・ロペスとホームレスの音楽家ナサニエル・エアーズとの出会い、交流、そして変わることのない友情を描いた「路上のソリスト」。本作の原作者であるロペス氏本人が来日し、本作について語ってくれた。(取材・文:編集部)

スティーブ・ロペス氏 インタビュー
「自分の経験や自分が大切だと思っていたテーマに忠実な映画になった」

ロサンゼルスのスキッド・ロウで撮影中のロバート・ダウニー・Jr.とスティーブ・ロペス氏。実際の年齢差は12歳
ロサンゼルスのスキッド・ロウで撮影中のロバート・ダウニー・Jr.とスティーブ・ロペス氏。実際の年齢差は12歳

──いままで記者として沢山のストーリーを書かれてきたと思いますが、ナサニエルのストーリーがこれだけ多くの人々を惹きつけた理由は何でしょうか?

「何よりも、人と人とが繋がることを感じさせてくれるストーリーだからじゃないかな。あと、普通の人がなかなか本当の意味での人生の目的を見つけられずに生きている中で、ナサニエルが自分自身の答えを持っているというところにも惹かれたのでは? 自分自身も彼のそんなところにインスピレーションを受けたしね」

──ナサニエルさんの取材をして、自分自身に変化や彼の影響はありましたか?

「今回のナサニエルとのストーリーは、35年のジャーナリスト生活の中でも例外。ここまで個人的に関わったのは初めて。ナサニエルとの交流は私が彼に楽器を提供した段階から始まったんだが、彼が楽器を持ったことで狙われたり、傷つけられたり、殺されたりする危険があって、とても怖かったよ。でも彼との交流の中で精神医療などに関する政策を学んだし、かつて無いほどそういったものに関心を持つようになっていた。ジャーナリストとしては取材者に対して距離を置くというのは今まで訓練されていたことではあるけど、それを全く変えたのがナサニエルだったんだ」

スティーブ・ロペス氏。奥さんの 誕生日がダウニー・Jr.と同じだとか
スティーブ・ロペス氏。奥さんの 誕生日がダウニー・Jr.と同じだとか

──ロペスさん自身で脚色しようとは思わなかったんですか?

「脚本執筆に関してはプロデューサーたちから聞かれなかったんだよ(笑)。でも、脚本を書いたこともないし、書き方を学ぶ時間もなかったからね。まあ、4年前にナサニエルと会ってから、毎日忙しくなってしまってあまり時間もなかったし、実は、私のコラム執筆と同時進行で脚本執筆も行われていたんだ。スザンナ・グラントが脚色したんだけど、私の原作本の第1章が出来たら彼女に渡して、彼女がその部分の脚本を書いて、ということを繰り返していたら、最終的には、私の本よりも先に彼女の脚本が出来上がってしまったんだ(笑)」

──映画化にあたって、多方面からのオファーがあったと思いますが、ロペスさん自身が映画化に際して望んでいたことはどんなことですか?

「そもそも映画に関しては自分の作品ではないので、最初から作り手を信用していたよ。決して単純化しただけの、お決まりの映画にはならないだろうと信頼してたしね。ただ、少し危惧していたのは、最後に気持ちよくなるようなハッピーエンドになってしまうことだった。もし、そんな作品になってしまうと、ナサニエルが日々立ち向かっている苦労や挑戦が小さく見られてしまうからね。でも、プロデューサーたちは製作前に“十分にドラマは足りるし、余計なハッピーエンドなども要らないし、何も足す必要がない”と言ってくれていて、そのとおりの映画になった。彼らにはとても感謝しているよ」

──割と気性の激しい役が多いロバート・ダウニー・Jr.がロペスさんを演じましたが、感想は?

実際よりもアグレッシブだった ダウニー・Jr.のスティーブ
実際よりもアグレッシブだった ダウニー・Jr.のスティーブ

「彼の出演作全部を見ているわけではないけど、どう猛な激しい役ではなくて優しい役もやっていたのではないかと思う。ただ、今回のロバートが作り上げたスティーブ・ロペスは実際の私自身よりもアグレッシブだったよ(笑)。ロサンゼルスの街で、あんなに叫んだり、走り回ったりした覚えはないしね。私自身がナサニエルに対して、“なんてことをやってしまったんだろう”と立ち止まった瞬間や困惑の表情も、とても上手くとらえていたと思う。(ライト)監督にもロバートにも私自身を再現しようとしないでくれっていったんだ。そんなことをしたらつまらない映画になってしまうからね(笑)。

私自身、実在の人物や事件を映画化する際にその対象をただ模倣するということは、何の芸術的貢献もないし、理解できないんだ。だから、自分の書いた原作はアイデアとして脇に置いて、オリジナルで作ってくれと伝えた。結果、その通りのものを作ってくれて、実際に自分の経験や自分が大切だと思っていたテーマに忠実な映画になったと思うよ。凄く長い時間をロバートと過ごしたわけでもないし、私がセットに足繁く通ったわけでもないのに、こういう結果になったのは製作に関わっている全員がストーリーの本質を理解してくれていたからじゃないかな」

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