劇場公開日 2009年1月31日

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チェ 39歳 別れの手紙 : インタビュー

2009年1月20日更新

26歳の長編デビュー作「セックスと嘘とビデオテープ」(89)で、いきなりカンヌ国際映画祭パルムドールを史上最年少で受賞。その後しばらく雌伏のときを過ごすが、98年の「アウト・オブ・サイト」で再び脚光を浴び、「トラフィック」(00)ではついにオスカー監督となったスティーブン・ソダーバーグ。そのソダーバーグ監督が、「オーシャンズ11」シリーズ(01、04、07)を作りながら温め続けてきた企画が、20世紀最大のカリスマ、チェ・ゲバラの半生を描いた本2部作だ。eiga.comでは、約15年ぶりの来日を果たしたソダーバーグ監督に直撃インタビューを敢行。彼がゲバラに惹かれた理由や2部作にした理由、そして盟友ベニチオ・デル・トロとの撮影について話を聞いた。(取材・文:サトウムツオ)

スティーブン・ソダーバーグ監督インタビュー
「伝記映画史上、俳優よりも実物の方がハンサムな最初の例だと思う」

ソダーバーグが2部作を通して最も強調したかったのは、チェ・ゲバラの“戦士”としての側面だという
ソダーバーグが2部作を通して最も強調したかったのは、チェ・ゲバラの“戦士”としての側面だという

──7、8年前にプロデューサーのローラ・ビックフォードが企画を立ち上げていますね。世界的にも有名な人物だけに、リサーチも念入りに長い時間をかけたことと思います。特に、驚いたエピソードなどありますか。

「リサーチをしている時は、実のところ驚いてはいけないんだね。すべてを吸収しなくてはならないので、ひとつのことに驚いていたら、エピソードの比重が均一にならないからね。正直なところ、最初はチェ・ゲバラについて、私は詳しく知らなかった。だから、チェについては白紙状態で、それから徐々に“同じ大きさの文字”で埋めていき、全体像が見えてきて初めて、どの部分の“文字を大きくする”か決めたんだ」

──文字を大きくしたのはどの部分ですか?

「映画に描かれたシーン、すべてだよ。彼の人生はとてつもなく波瀾万丈で、ぶっといからね」

「カフカ/迷宮の悪夢」以来、約15年ぶり に来日したスティーブン・ソダーバーグ
「カフカ/迷宮の悪夢」以来、約15年ぶり に来日したスティーブン・ソダーバーグ

──2部作に決めたのはいつ頃ですか?

「2005年ぐらいかな。クエンティン(・タランティーノ)には相談していないよ(笑)。ボリビアでのロケハンから戻ってきたばかりだったが、脚本は当時まだ1本で、他にもキューバ、ニューヨーク、メキシコでも撮る予定だったが、エピソードがいっぱいあって巨大化していった。そこで自然界からヒントを得たわけだ。大きな細胞は分裂するからね」

──主人公の青年期は、ガエル・ガルシア・ベルナルがチェ・ゲバラを演じた「モーターサイクル・ダイアリーズ」で描かれ、風景描写も似ていることから、全体で“「チェ」3部作”のように感じます。

「あの映画は非常に役に立った。つまりチェという人物のバックボーンはすべて描かれており、この2部作の基礎編にもなっている。特に、全米での興行成績が良かったし、あの映画があったからこそ、チェの人生に人々の関心が向けられたんだ。本当に助かったよ」

──2部作で、フィルムサイズや撮り方が違うのはなぜですか?

「2部作を通して最も強調したかったのは、彼の“戦士”としての側面だった。彼はアルゼンチンの特権階級の生まれで、医者としての高い教育も受けた人物だ。そうした出自を持った人間は普通、銃を持ってジャングルに入ったりはしないものだが、彼は革命の名の下に、つねにジャングルに入っていった。興味を惹かれたのはそこだった。だから第1部で革命家としての胎動期を見せたら、第2部で彼の死も描かなければならないと思った。2部作で2つの軍事行動が描かれるわけで、その色合いを変えてみた。革命の全体像を俯瞰した伝記を基にした第1部は革命が成功したあとに書かれたもので、オーソドックスなスタイルで撮った。その一方で、チェ自身のボリビアでの体験を綴った日記を基にした第2部は、チェと一緒に穴ぐらの中にいるような、見ているだけで苦しくなるような緊張感にあふれた画面づくりを心がけた。カメラアイがチェの目になっているようなスタイルだね」

第2部では手持ちカメラを多用。 息苦しい緊張感が全編を貫く
第2部では手持ちカメラを多用。 息苦しい緊張感が全編を貫く

──第1部の「チェ/28歳の革命」は客観的ショットが多い横長のシネスコサイズ、第2部の「チェ/39歳 別れの手紙」は主観的ショットが多いビスタサイズですね。

「そう。先ほども言ったように、それはチェの声の質の違いによる。第1部はハリウッド的で、革命の大勝利を俯瞰的に描いている。第2部ではチェの内なる声に迫った。それにはハンディカメラがいい。そこでシネスコではなくて、ビスタにした」

──映画が完成するまでの7、8年間のあいだに挫折することはありませんでしたか?

「それはない。8年間映画化に向けて最善の努力をして何とか完成にこぎ着けた。それがチェに対するオマージュであり、“革命的なこと”だと思う。誰でもリサーチをして話を聞くことはできるが、予算を取って映画を製作するとなると別物だからね」

>>スティーブン・ソダーバーグ監督インタビュー その2

インタビュー2 ~ソダーバーグ監督を魅了した“チェ・ゲバラ”のカリスマ性(2)
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