劇場公開日 2009年2月7日

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「この作品すごく哲学的なテーマを感じました。 それは無常と永遠。でも全然深刻にならないは、人と人との出会いに喜びを描いているからでしょう。」ベンジャミン・バトン 数奇な人生 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この作品すごく哲学的なテーマを感じました。 それは無常と永遠。でも全然深刻にならないは、人と人との出会いに喜びを描いているからでしょう。

2009年2月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 この作品すごく哲学的なテーマを感じました。
 それは無常と永遠。
 監督は、登場人物に永遠という言葉を何度も語らせ、「8」という数字の意味とかハチドリの舞に腐朽・普遍を暗示させていました。
 だけれど、物語はベンジャミンの若返りしていく加齢と周りの老人たちの死や恋人のデイジーが老けていくところを見せていき、人生は無常なんだということを際立たさせていきます。
 ベンジャミンがデイジーとの時間のズレに耐えられなくなったとき、彼女は永遠ってあるのよと励ました言葉が印象的です。
 デイジーは永遠って、具体的には答えなかったけれど、彼女が語る「みんな人と違う人生を送っていると思うけれど、たどる道が違うだけ。結局同じなの」というセリフには、いのちとは「大河の一滴」、大きないのちの大海に注がれてひとつに結ばれるという意味も込められているように思えました。

 また養老施設で育つ幼少時代の死期の迫った老人たちに囲また生活。「幼い」ベンジャミンは、自らの外見と同じ周囲の人の死と間近に接することで、やがてくる自分の運命も悟ることができたのではないかと思います。その達観したことが、やがて自身の家族との別離する決断に繋がっていったのでしょう。

 ベンジャミンが味わう不条理は、結局彼を孤独と絶望に追い込んでいくことになります。普通の人なら老いていくと、やがて死を迎えることになります。しかしそれはいつのことか決まっていないことが、わずかな救いとなっているのですね。けれども、ベンジャミンの場合、80代相当の年齢で生まれて、日々若返っていくなら、あと何年生きられるか、その変化のスピードから、察しがついてしまいます。
 自分があと何年生きられるか、予想がついてしまう「無常じゃあない人生」なんて、どれだけ当人にとって、「苦」であったでしょうか。

 でも画面から全然ベンジャミンの深刻さは伝わってきません。それは演出において、彼の内面に踏み込んでなく淡々と描いていることも関係しているかもしれません。
 また彼が人生の途次で出会う素晴らしい人との一期一会に喜びと充実感を漲らせているところを多く描いているからだとも思えます。
 ラストにワンカットずつ再登場する、ベンジャミンに関わり死んでいった人たち。それら人々のショットに監督の深い哀惜の思いを感じずにいられませんでした。無常という言葉の響きは、悲しいものがあります。しかし、こんな素晴らしい出会いももたらすものなら、喜びでもありますよね。
 あとデイジーとひさびさに出会う場面が、印象的でした。『少年』時代から、憧れていいて、海の仕事に就いてからも、寄港時に欠かさずハガキを送り続けていたデイジーがいきなり大人の女に化けていた衝撃。しかも淫売のようにいきなり激しく求められたら「若い」ベンジャミンが引いてしまうのも無理からぬもの。
 二人の時間のズレというのが、際だったシーンでした。

 それにしても、ふたりがやっと同じ時間を刻める40代になって、本格的ラブストーリーが始まるまでが、長~い伏線と言えます。ここまでくるまでになんと1時間半もかかります。その間、こんな事もあんなこともありましたよとエピソードは繋がっていくのです。でも2時間47分は長い。もっと前半は短縮してもよかったのではないでしょうか。
 ただ前半のエピソードは、ブラビの老け役のリアルさ見せつけるところだから、仕方がないのかもしれません。
 加えてデイジーのバレーを踊るシーンは、きれいでしたね。演じているケイト・ブランシェットは、幼いころバレエを習っていたそうです。だから『エリザベス』でも華麗なダンスを披露できたわけなんですね

 最後に皆さん、この物語の本当の主人公は、何だと思います?
 小地蔵は、冒頭に登場した駅に付けられた大きな時計だと思うのです。その時計を作った時計職人は、第一次世界大戦で息子を失いました。息子を蘇らせて、元の平和な時代を取り戻したいという思いから時計は、逆回転していきました。
 この時計が逆回転を始めた1918年に、ベンジャミンは誕生し、彼が亡くなる年に時計もまたデジタルに付け替えられました。
 この時計の生涯をベンジャミンに託して描いた作品なんだと思うのです。

 この時計がリタイアして倉庫にしまわれ、台風による浸水で、水没しかけたとき、何故か止まっていた時計は、突如右回りに動き始めます。
 そのエンディングシーンにどんな意味を監督は込めたのでしょうか。意味深ですね。

流山の小地蔵