劇場公開日 2023年8月25日

「そこにある恩寵」シークレット・サンシャイン redirさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0そこにある恩寵

2023年9月7日
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鑑賞方法:映画館

主役のシネ氏の、その時々の存在感がすごい。
密陽という街に夫を交通事故で亡くしたシネ氏が一人息子のジュンとやってくる。
密陽はどんな街?とシネはきく。
普通の街だと、答える社長と呼ばれる男、
街にくる道中で出会った男がいろいろ世話を焼いてくれる。
ほんとに東アジア韓国の普通すぎる街、つまり男社会、2007年の作品、美しく色褪せた街を映す名作を今2023年の目線でみるからだろうか、男と女の求められ定められた役割分担とその強制が意識的に感じられる。社長のところに集まる男は女を卑下すべき存在、性的存在としかみてないような描写あり、不動産屋、いろいろコネがある地元の有力者、教会の長老などと名があるものは皆男で、チンピラ中学生でさえも女は男に一方的に殴られている。日本にも韓国にもある全く普通の街。
コーチのつっかけサンダルを履いてセンスの良いジーンズ姿で、子どもの髪型もおしゃれにメッシュなどいれて小さな田舎町でピアノ教室を開きソウルの大都会からやってきた。ソウルに帰りたくない、ソウルではみんなに見られてる誰も知らないところに来て暮らしたかったと言っていたけど、かえってみんなに見られるような街にしかも夫の故郷にしかも夫の思い出話も何もなし。というコーチのサンダルからなんだか意味深なオープニング。最初は自然体のように、都会的な雰囲気振る舞いをしていたが、何かを無理してなんとなく自分を大きく見せていたのかなと、あとから感じられる。自由な結婚をして、実はダメンズだったのだが悲劇の死別をし、目の中に入れても痛くないくらい可愛い息子がいて。家父長制の父に恨みをもち、おそらく夫も死んでよかったと思っていただろうし、シネのことが好きで無理矢理感満載に紳士的に付きまとうソンガンホ演じる社長は俗物と一蹴し、でも、なんか籠の中の鳥水槽の中の魚のような、胸がつかえるような自由というのが自分の人生、、

やがて誘拐事件がおこり無惨に息子を殺され、まさかの宗教に救われ、神の心は見えるのか、見えると信じて殺人犯を赦すというところまで、過呼吸だった自分を持ち直し取り戻すが、殺人犯は刑務所内ですでに信仰により神に罪を赦されたというではないか。この部分の緊張感となんかギャグ並に平穏な受刑者の、舐めてんのか感がすごいシーン。
そこからのシネのよろめきぶりが半端なく、神の愛は神の悪意となり素の自分もイビルとなる。
見えたと思った、見ようとしなければ見えない神の愛はまた見えなくなり、だからそんなものはないとみんなに思い知らせる行動に出る。全ては嘘でまやかしと。万引きからスピーカージャックまでのシーンもすごい。
シネの変化をじっとそばに佇み見つめる社長。
意気揚々とソウルから引っ越してきたリアリストで自意識強いシネ、神の愛に溺れ光の輪に入るシネ、神に見捨てられ絶望と悪に包まれる過呼吸のシネ、退院してそこにいつもあった光、秘密でもあり秘密でもなく誰にも降り注ぐ陽光の下に在るシネ、この役者さんの変化がすばらしい。そしてじっと耐える、たたずみ、待つしがない社長俗物男のソンガンホがまた素晴らしすぎる。母親との電話のシーンも秀逸だ。全てのシーンが背景光人物描写演技緻密に人と社会の在り方を抉るように撮られていてどのシーンも緊張感であふれる。日常。私ここにいて良いのかと落ち着かない感じの2時間半。
最後、赦しも恩寵も訪れない。庭で髪を切るシネ。光を集めるように鏡を持つ社長。ふわふわと髪の切れ端が陽光の下、風に持っていかれ、雑然とした小さなその土地に降り注ぐ陽光、やさしく人々の暮らしをなぞうような風。恩寵はそこにある。重力を跳ね返して。

おまけ
ミーハーなこと言えばソンガンホが素晴らしすぎてイチャンドン作品の中ではこれが一番好きかも。イガイガギスギスのこの世の中において、その尊くもゲスいお姿で救世主のように見守ってくださるソンガンホのありがたさよ。監督作品の中では痛いけど痛すぎない、割とストレートに受け止めできる作品だと思う。それもこれもソンガンホ様、、、?

redir