劇場公開日 2008年5月31日

「【藩の農政を慮り、不正を行う重臣への命を懸けての”下級武士”の行動。そして、彼を密かに慕う同じく下級武士の娘の姿が心に染み入る作品。近年、今作のような品のある時代劇映画が、減ったなあ・・。】」山桜 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【藩の農政を慮り、不正を行う重臣への命を懸けての”下級武士”の行動。そして、彼を密かに慕う同じく下級武士の娘の姿が心に染み入る作品。近年、今作のような品のある時代劇映画が、減ったなあ・・。】

2020年10月6日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

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幸せ

ー藤沢周平、「海坂藩シリーズ 番外編」ー

■印象的なシーン<caution 内容に触れています。>

 ・手塚が野江と墓参帰りの際に山桜の前で会うシーンの美しさ。
ー”今はお幸せでござるか・・”と声を掛けながら、山桜の枝を手折り野江に渡す手塚。この後、二人の過去の関係性と現在の野江の辛い日々が描かれる・・。-

 ・海坂藩の下級武士の娘・野江を演じる田中麗奈の質素だが、美しき着物姿。そして、彼女の両親が二度も出戻った娘を、責めない姿。
 ー 母(団ふみ)の言葉 ”貴女は、ほんの少し回り道をしているだけなのです・・”ー

 ・同じく、海坂藩の下級武士で剣術に秀で、藩校の道場で剣を教える手塚弥一郎を演じる東山紀之の凛とした侍の姿。
ー この方は、大岡越前のイメージが強いが、今作のような役も実に良く合う。-

 ・凶作が続く海坂藩の重臣、諏訪は財政の為と言いつつ、私腹を肥やし別邸などを立てている・・。手塚が諏訪の一行と会った際、頭を下げつつ道を譲りながらも諏訪を見る目の厳しき事。
 一方、諏訪に媚び諂う野江の再婚した夫、磯村を含めた連中の姿との対比。
 野江の夫に対する激しき目付き・・。そして、自ら離縁して実家に戻る姿。

 ・手塚は、且つて握り飯を田で渡した少女とその母の粗末な墓の前で手を合わせる男の姿を見て、重大な決意をする・・。
ー多くの人が、見て見ぬふりをしているのに・・、そして諏訪の行状を江戸にいる藩主に知らせようとした者の事を耳にしているのに・・。自分の命を犠牲にしてでも・・。-
 ー 野江の父(篠田三郎)の言葉 ”あの事件はお家を動かした・・”ー

 ・手塚は自らの意思で投獄され、冬が来て、又春が来る。獄中の小さな窓から見上げると、そこには蕾が開きかけた桜が・・。
 野江は手塚の母(富司純子)の家を勇気を持って”山桜の枝”を携え、訪れる。そして野江の訪問を喜ぶ手塚の母と、粽を作りながら”新たな生活”が始まることを祈る・・。

<藤沢周平の世界に触れた人であれば、海坂藩のモデルは庄内藩であり、藩主の酒井家は代々、名君であった事は承知の筈。(手塚が切腹にならない理由の背景であろう・・)
 又、随所で映し出される月山の雄大な姿や、庄内平野の美しい風景も印象的な、品性高き時代劇映画の佳品である。>

NOBU
KENZO一級建築士事務所さんのコメント
2021年9月2日

NOBUさんへ
コメント等ありがとうございました。
小生は酒田生まれですが、鶴岡は車ですぐですし、従兄弟も住んでおり、庄内弁もお米も一緒で、日常的に気質の違いを感じることはありませんでした。ただ酒田は「本間様には及びもないが、せめて成りたや殿様に」と言われる豪商の町でもありましたので、世間的にはそんなイメージもあるかもしれませんね。
私は一時、藤沢周平よりも葉室麟の世界に浮気していた時期もありましたが、最近はまた藤沢周平の世界が心地良く感じております。海坂藩の血筋は争えないということでしょうか😊
今後とも宜しくお願いいたします。

KENZO一級建築士事務所