劇場公開日 2010年1月23日

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「監督vs.観客の奇妙なギャンブル」Dr.パルナサスの鏡 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5監督vs.観客の奇妙なギャンブル

2024年1月31日
PCから投稿

【監督vs.観客の奇妙なギャンブル】
考えてみればおかしなこと。
作り物の映画を観に来て「なんか作り物っぽくてつまんない」と不満げに帰っていき、しかも、懲りずにまた劇場に来る人種なのだから。私たち映画ファンは(^^;)。

さらにときどき、ニセモノの人生に本物の涙を流したり、本物の笑い声をあげたりする。「やられた/負けた」とつぶやいて。

Dr.パルナサスは、想像で作り上げたファンタジーワールドに人々を招き入れ、想像力こそがあなたの人生をより良きものにすると説く。自分のイマジネイションでたくさんの人を救おうとする彼は映画監督の化身。

パルナサスにつきまとう黒い影。
想像力など必要悪=贅沢品に過ぎず、所詮は一時しのぎの清涼剤とうそぶき、現実の生々しいインパクトの前には吹き飛んでしまうよとせせら嗤う悪魔は、私たち観客そのもの。

パルナサスは素晴らしいイマジネイション世界=映画で、悪魔を感服させようとやっきになる。自分の健康や、愛する家族の生活を担保にして賭博にのめりこむ。でも、持ち前の癇癪やワガママをついついぶちまけてしまい、いつも映画を壊してしまう。
パルナサスはいつまでも悪魔を降参させることができない。
一方、悪魔の目的は、勝敗をつけることではなく、賭けをなるべく長引かせること。ときどき勝たせてやったり、1000年の寿命を与えて「さらに俺様を悦しませろ」と仕向ける。
不躾で浅慮。監督の気苦労などおかまいなしに、新作映画をせびり続ける"たかりや"なのだ。

この蜜月なギャンブルに、私利私欲で頭がいっぱいのプロモータが絡んできて「もっと大衆にアピールできるようモダンに!」とテコ入れを提案し、パルナサスの娘に媚薬を嗅がせ・・・・・この攻防も秀逸。嘘つきは嘘をつかれるのに弱い。

ラストシーンで彼らが浮かべる表情、もう最高だわ。みんなにみてほしい(笑)。
ひどいなぁギリアム、私ら、悪魔ですか(^^;)。
いいでしょう、そっちがその気なら、生涯付きまとってやりますよ。
あなたの周りをね。
ほれほれ、ドンキホーテ早よw

「このお話はハッピーエンド?」
「まったくお約束できませんな、マダム」

雨丘もびり