劇場公開日 2010年1月23日

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「大風呂敷広げて、これから面白くなりそうというところで失速。意外に教訓的。」Dr.パルナサスの鏡 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0大風呂敷広げて、これから面白くなりそうというところで失速。意外に教訓的。

2023年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

諸星氏の『暗黒神話』に匹敵する世界観を期待したけど、教訓映画?になっちゃった。グリム童話だってもっと多義的で生活に根付いた寓話なんだけどな。

しょせんは一神教の世界の方が作られた映画。
 悪魔との賭けにまつわる物語。そして鏡の向こうは、鏡に入った人の欲望が展開し、欲望に負けるか、欲望に翻弄されずに”正しい”選択ができるか、善か悪かというニ者選択の二面性しかない寓話。
 世界はもっと多義的なんだと思うんだけどな。残念。

心の内面を映し出すと言うので楽しみに観たが、結局、欲望に負けるか、勝つかだけの選択。
 心ってそんな単純なものではなく、重層的。フロイトやユングの夢分析だって、ニ重三重の多義的な意味がいろんな顔して現れる。意味を掴んだと思えば、たちどころに姿を変えて別の顔・層・面を含んで表れる、というように。
 確かにね、日々の”選択”が人生を形作っていくのではあるが、物語的には単純な展開になってしまってつまらない。あの時の選択が数年後意味を持って再び目の前に現れるなんて良くある事だのに。選択しないでおく”間”というのは西洋文化にはないのかな?

拝火教+仏教の導師と悪魔を出してきて、壮大な世界観を展開するのかと思ったら、アレレ?
 トリックスター(他のサイトの、あるレビューではタロットカードの「吊るされる人」を重ねていた)のトニーを絡ませて、どんなふうに話を膨らませていくのだろうかとワクワクさせておいて、アレレ?ヒース氏が亡くなったからかしら?
 そして特に後半、突然のなにそれの展開…悪魔の提案(ネタばれになるので詳しく書きません)。このあたりから物語が精彩を欠く。たんなる教訓物語になってしまって面白くなくなった。

ドタバタ人間があがいてみても、しょせんは全て悪魔の手の内の中ということなのかな?(孫悟空がお釈迦様の手の中で暴れたようなもの?)

現実世界はセピア系の、欲望の世界はポップな色調でまとめられている映像は見応え抜群。三月兎の世界かくやという感じで面白い。
 リリー・コールさんはある場面では人魚?セイレーン?という怪しさ満載だし、悪魔役のトム・ウェイツ氏もいかにもという悪魔を醸し出している。婦人の心の中の世界は、ゴージャスそうでいてのチープ感やコブラの悪魔の顔とか秀逸。
 反面、拝火教と仏教の説話を混ぜている?という場面はあまりにも陳腐。後半の崖崩れや砂漠もやっつけ仕事?いろいろとファンを楽しませるネタは出してきているけど、前半はもっと凝っていたような…。

トム・ウェイツ氏とか役者を揃えているのだから、もう少し役者で見せてほしかった。ヴァーン・トロイヤ―氏も何気にいいアクセントでした。

それでも、繰り返しますが、映像の美しさは観る価値あります。サーカスのような馬鹿馬鹿しさに魅かれる方ならハマると思います。

とみいじょん