劇場公開日 1976年9月18日

「自分の存在意義とは」タクシードライバー Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分の存在意義とは

2017年2月5日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

総合80点 ( ストーリー:85点|キャスト:85点|演出:75点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )

 自分が中学生の頃に、同級生の友人がこの映画のことを凄いと言っていた。そこで観てみたのだが、頭のおかしい男が勝手にわけのわからないことを始める内容に、ただただくだらないと感じた。この自分勝手に暴走する男と内容は何なのだろうか、ただの異常者を主人公にして何かしでかさせて一体何が言いたいのだろうかと思っただけだった。中学生の私は、この時代のアメリカの社会情勢も人間の抱える孤独と心の闇も全くわかっていなかった。

 大人になって観直してみると全く評価が変わった。ベトナム戦争から帰った元兵士たちはアメリカに居場所がない。元々人付き合いが下手だし手に職があるわけでも学歴があるわけでもない。だからまっとうな職にもつけず地位も金もない。友人にも家族にも恵まれず、大都会の中でも孤独の闇を抱えたまま、ただ日々を生きる屍のごとくかろうじて過ごしている。彼には夢も希望も生き甲斐もない。そして日々の仕事の中に、社会の不正や矛盾や汚辱を見つけては虚しくなり1人で怒りを感じる。本心を話し気持ちを共有する相手もないままに自分の心の中で葛藤を続けて、そして正しい道を見つけられないままに自分の存在意義を求めて方向違いの道を暴走し始める。
 彼はなぜこのようなことをしたのかが20歳を超えてからようやくわかった。ただの頭のおかしい男を描いた作品ではなく、社会が抱える闇と男が心の平安を求めて得られずに道を踏み外していく様が描かれていた。当時中学生の自分には、ベトナムから帰ってきて誰からも必要とされなくなった元兵士の事情など知る由もなく、孤独な男が居場所と存在意義を得るために勝手に自分を正義の味方と勘違いしていくのが理解出来なかっただけだった。
 その男を理解したとき、この作品はとても悲しいものだということがわかった。もし自分がこのように社会から疎外されたまま孤独に一生を送るのだという絶望感に囚われたらどうだろうか。現在の日本でも、貧困で友人もないままに孤独に生きている人たちが時々問題になっている。そしてそんな人々が狂気に走ることを示している。なかなか奥深い話である。

 この作品を面白いと言っていた当時中学生だった友人は、その年齢で本当にここまでわかっていてこの作品を面白いと言っていたのか、気になるところ。

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Cape God