泳ぐひと

劇場公開日:

解説

ジョン・チーバーの原作を、「リサの瞳のなかに」のフランク・ペリーが監督、脚色はペリー夫人のエレノア・ペリー。撮影はTVコマーシャル出身のデイヴィッド・L・クエイド、音楽はマーヴィン・ハムリッシュ、美術をピーター・ドハノス、編集にはシドニー・カッツ、カール・ラーナー、パット・サマーセットの3人が担当している。出演は「インディアン狩り」のバート・ランカスター、他にTV出身のジャネット・ランガード、「サイレンサー 待伏部隊」のジャニス・ルールなど。製作はペリーとロジャー・ルイス。

1968年製作/アメリカ
原題:The Swimmer
配給:コロムビア
劇場公開日:1969年9月9日

ストーリー

夏のある日曜の午後。ネッド・メリル(バート・ランカスター)は水泳パンツだけという姿で、友人ダンの家を訪れた。友人夫婦は前夜のパーティでくたびれており、一緒に泳ごうというネッドの誘いを断った。昔は皆一緒に泳いだ仲だったのに。ここでネッドは、隣人たちのプール伝いに泳いで家へ帰ろうと決心した。ダンのプールを泳ぎ渡ったネッドは次にベティ・グレアム家のプールを訪れた。かつてネッドが恋したベティは、新築のプールを自慢し、小市民生活に満足しきっていた。幻滅し、ネッドはハマー夫人の家へ向かった。が、ハマー夫人は、息子が病気の時ネッドが見舞いに来なかったのを根にもって、冷たく追い払った。ジュリアン・フーパーの両親は留守だったが、かつてメリル家の子守りをしていたジュリアンは、美しい娘に成長していた。彼女はネッドの泳ぐことに賛成で、一緒に行くことにした。一緒に友人のプールを泳ぎ、野生の馬と競争したり2人は楽しい時を過ごした。ハードル越えをやって、ネッドは足に怪我をしたが。しかし、ネッドは、ジュリアンがコンピューターによりボーイフレンドを選んだという話をした時、彼女にも失望を感じ、1人で次のヌーディストのハローラン家に向かった。道を行くネッドの前に少年が現れた。少年の家のプールは渇れており、同じように少年の心も失われていた。ビスワンガー家はパーティの最中。正装した人々の中で、ネッドは招かれざる野蛮人だった。続いてネッドは昔の愛人で女優のシャリー・アボットを訪ねた。シャリーは心の古傷をえぐられ、彼を追い返した。公衆プールでさんざんに冷遇され、ネッドはやっとのことで家へ帰りついた。が、家は廃墟となっており、彼を待つものは誰もいなかった。扉を叩くネッドに冷たい雨が降り続いていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5アメリカ的貴族の没落

2023年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

私の鑑賞記録によると本作を最初に見たのは1976年となっていて、当時自主上映会での鑑賞でしたが「変わった映画だなぁ~」と思いながらも妙に心に残った作品でした。
それから全く見る機会に恵まれなく、是非もう一度見たいと思っていた作品の中の一本でもありました。
で、今回ほぼ半世紀ぶりに鑑賞したのですが、今回は特別変わった作品とも思えず、非常に明瞭に理解できました。
半世紀以上映画を見続ければ、鑑賞レベルも少しは上がったということでしょうか(笑)というか、当時はまだこういう映画の語り口に慣れていなかったのでしょう。
特に本作の主演がバート・ランカスターということもあり、のちに見たヴィスコンティ監督の『山猫』や『家族の肖像』の系譜でもあり、ヴィスコンティが貴族社会のデカダンスを描いていたように、本作ではアメリカのブルジョワジーの没落を描いた作品でもあり、有産階級のステータスでもあるプール付きの豪邸の知人宅を巡るという不思議な構成ながらも、少しずつ彼の正体が解き明かされていくという手法で、最後に市民プールを追い出され、辿り着くのが廃墟と化した我が家であるという、時代的には資本主義社会に対する危機感や皮肉を描いた、アメリカンニューシネマの幕開け的な作品に位置するのでしょう。

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シューテツ

0.5思わせぶり映画

2023年7月17日
PCから投稿

近所の邸宅のプールを渡り歩いて泳がせてもらいながら、そこの住人に訳のわからない文句を言われたりして、訳もわからず落ち込んで、訳わからず終わるという、訳のわからない作品。
それぞれの会話の背景も、関連もまるでないので、さっぱりわからず、感想読んだら上流階級の風刺らしいですが、どこが風刺なのか、単に訳がわからないだけです。

訳わからないだけに、評論家なんかは何とでもいえるので便利なんでしょうけどね。

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越後屋

3.5「持つ者」の虚しさ

2022年12月22日
iPhoneアプリから投稿

アメリカン・ニューシネマは、当時のアメリカ社会に対する不信感を通奏低音としており、ゆえに貧者や若者といった社会的弱者の痛みや不条理に焦点があてられる作品が多かった。『真夜中のカーボーイ』や『スケアクロウ』、『ひとりぼっちの青春』あたりがその好例だ。しかしこうした「持たざる者」への同情的連帯とは逆のアプローチ、すなわち「持つ者」の虚構性を暴き立てる作品も少数ながら存在する。

たとえばホラーの巨匠ウィリアム・フリードキンによる『フレンチ・コネクション』では、粗暴で卑怯な警察官=体制側=「持つ者」を主人公に据えられ、ことさら彼の内面の欠落性と理由なき暴力性が強調された。

あるいはボブ・ラファエルソン『ファイブ・イージー・ピーセズ』。ジャック・ニコルソン演じる主人公は行き場のない鬱憤を抱えた若者という点においてアメリカン・ニューシネマの常道をなぞっているが、その出自は有産階級だ。彼はブルジョワジーのつまらないくだらない嘘臭い生活に飽き飽きし、一人で家を飛び出す。

さて、本作もまた「持つ者」批判の文脈に位置づけられるアメリカン・ニューシネマの一作だ。しかしまあこんな変わり種がまだ残っていたとは。「上裸のバート・ランカスターがブルジョワの邸宅に備え付けられたプールを泳ぎ伝いながら自宅に帰る」などという荒唐無稽なあらすじが一切の誇張も省略もない映像的事実であるとは誰も信じまい。上裸の彼がプールを泳いでいるだけならまだしも帰路の途中で馬と戯れたり高速道路を渡ったりするシーンは寓話の域を超えて不毛なシュールレアリスムの様相を呈している。

こうした過激な誇張表現を通じて語られているのは、ブルジョワジー=「持つ者」の華やかだが中身のない生活だ。ランカスターは持ち前の肉体を誇示しながら豪邸のプールを回り、悠然とした態度で友人の長話をやり過ごしたりビキニ姿の女を口説いたりする。彼のブルジョワらしからぬ生き生きとした振る舞いに、受け手ははじめこそ『ファイブ・イージー・ピーセズ』的な、ブルジョワ内部から自己批判的に湧き上がる反権力の物語を想起するが、その読みは見事に外れる。

山あいに並ぶ豪邸のプールを周回し、そこに住まう人々との交流を深めるごとに、ランカスターの後ろ暗い過去が徐々に明かされ、それに伴い彼本人も残酷なブルジョワ的本性を露わにしていく。金にものを言わせて他人の家のビール用カートを奪おうとしたり、過去の女を抱こうとしたり、なかなか酷い。

そんな彼の栄華も遂に終わりを迎える。剛健さの表象としての上裸はいつしか彼が何も持っていないことの暗示へと転倒し、彼は雨の寒さに凍えながら丘の上の自宅に辿り着く。しかし彼の家には無数の蔦が絡まり、窓は割れ、白い壁は真っ黒に汚れている。彼は家に入る術もなく玄関の前で泣き崩れる。カメラは割れた窓から家の中へと侵入していくが、そこには何もない。内面の欠落を外面の華美で埋めていた男が、外面すら奪われた成れの果てがこれだ、と言わんばかりに映画は幕を閉じていく。

ただまあ「持つ者」に比して「持たざる者」には強固な内面なるものがあるのかというとそれも疑わしい。そもそも貧・富とか抑圧・自由とか老人・若者とかいった二項対立そのものが失効しかけていたのが60年代後半から70年代前半にかけてのアメリカが陥っていた窮状の実態だったのではないかと思う。そう考えるとやはり主人公があらゆる二項対立を往還した果てに全てが等しく価値を持たない虚無の地平へと辿り着いてしまうさまを描いた『暴力脱獄』がアメリカン・ニューシネマとしては一番リアルだったな、と思ってしまう。

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因果

4.0キモ男のトライアスロン

2022年7月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

近ごろ気のせいか「泳ぐひと」やら「泳げないひと」など、スイミング系の映画が多いような気がする。

どんなものかとレンタルした1本。
メンヘラが泳いで三途の川を渡る話だった。

きらめく夏のシーンはプールの水も穏やかで、温かな微笑みや少女たちとの明るい交流に包まれているのだが、
人生の秋を迎え、同級生、同僚、元愛人、近所付き合いと、プールの水はこんなにも冷えきってしまった、まるで尖った氷の海だ。
これが”世間の水“だ。

彼の狂気に気付いてからは物語のすべてがサイケデリック。

この時代のアメリカンニューシネマは、当地でのバブル景気と破綻、富める者と負け犬の分断、二つの戦争の功罪、光と闇の社会を見つめてきた。

走り続けて 泳ぎ続けて、「ただただ家に帰りたい」という疲れ切った男の願望をスクリーンに見ながら、氷雨に打たれて溺死していく現代人の孤独を見た思いだ。

自死。
あるいは過労死。
実は映画の最初から、男の霊が彷徨っていたようにも見えて仕方無い。

誰もいない
空き家のドアにすがりつく姿は、どこか自分と重なった。

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きりん
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