「時代の転換点を記録している」ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時代の転換点を記録している

2018年11月14日
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単なるロックフェスの記録映画ではない
色々な意味で歴史の転換点を記録した映画だ

1969年8月、半月前にはアポロ11号の月面初着陸があり、ベトナム戦争は山場を過ぎ第一陣の2万5千の将兵が撤退を開始していた
そして中ソ国境では共産国同士の国境紛争がありソ連は中国への核攻撃を密かに準備していた
日本ではその年の1月東大安田講堂事件という学生運動の終末を告げた事件があったばかりだった
そして米国ではNYから北に170キロ程の農場で行われたロックフェスに40万人もの若者がこの歴史的ロックフェスに押し寄せていたのだ
彼らは全員がヒッピーと云うわけではない
しかしその気分や考え方を共有して連帯しているのは画面を見ればあきらかだ
平和と自由の祭典として、団塊の世代が若いエネルギーを発散するために、同年代の同じ気分と考え方をする仲間との連帯を求めて集結している

画面に写る彼ら彼女らはあれから50年経ち、殆どが70歳台前後だろう
本作のインタビューシーンに出てくる大人達よりもずっと老人になっている
赤ん坊ですら50歳なのだ

彼らは確かに世の中を変えた
そしてこのように21世紀が出来上がったのだ

ヒッピー文化が頂点を迎え、彼らも大人になる寸前のフィナーレの祭典だったのだ
それが映像からにじみだしてきている

なぜなら、このフェスで最高のパフォーマンスは示したのたはジミーヘンドリックスやジャニスジョプリンやサンタナであり、ジェファーソンエアプレインではない
つまりヒッピー文化の祭典では無くなろうとしていたのだ

本作とは単なるロックフェスの演奏シーン集では無い
それよりもそこに集まった若者達、取り巻く大人達がこのフェスをどう過ごし感じたのかを記録することを目的としているのだ
そこが翌年の1970年夏オランダで行われたスタンピンググランドのロックフェスの記録映画と決定的に違うところだ
なるほど助監督と編集に若き日のスコセッシの名前があるのも納得だ

素人の主催者がいきなり40万人ものフェスを開催すればどのような地獄になるか
日本の第一回フジロックの悲惨な惨状を知るなら恐怖しかない
それが奇跡的に無事成功したのは何故か

それは若者達の輝かしい心がけやマナーのせいか?
それもあるだろう
暴力的な振る舞いは60年台半ばの荒れた時代から影を潜めだしたていた
彼らも大人になりつつあったのだ

それよりもインタビューシーンに明らかなように、周囲の大人達の助けがあったからこそ無事にすんだのだ

反戦運動で豚どもと罵る相手だった軍隊は45名もの軍医をヘリで送り込んでいる
食料も水も決定的に不足していたのも地元の大人たちへの寄付を要請して乗りきっている
象徴的なのは特設トイレのシーンだ
トイレの業者の大人が黙々と汚れまくった個室を洗い、脱臭剤をセットする
確かに彼の仕事だろう
横の個室からドラッグでラリったヒッピーがでてくる、そんな事は知ったことじゃない
何もかも甘えだ、子供だったのだ
大人も子供だから仕方ないと甘やかせていたのだ
このフェスが無事に終われたのは大人達のお守りのおかけだったのだ
若者達はそれに甘えて遊んでいただけだったのだ

ラストシーンはフェス終了後の会場の光景が延々と写される
美しかった緑の野原は踏み荒らされ土にまみれた汚いゴミが見渡す限り一面に散らばっている
ほんの幾人かがゴミを片付けているがその横を知らぬふりで帰って行くものが多い

彼ら彼女らの時代は今終わろうとしている
ウッドストックの世代は長いフェスを終えた

後に残るのはこの光景なのだろうか?
誰が後始末をするのだ

それは我々、21世紀に生きていかねばならない私達の世代なのだ

あき240