劇場公開日 1960年12月24日

「本作は60年近い時間を経て、今またアメリカだけでなく世界中の自由に生きている国々にメッセージを発し始めている」アラモ(1960) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作は60年近い時間を経て、今またアメリカだけでなく世界中の自由に生きている国々にメッセージを発し始めている

2019年2月24日
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鑑賞方法:DVD/BD

傑作だ、もっと高く評価されるべき作品だ
ジョン・ウェインが製作、監督、主演をしている
映像、スケール、脚本、配役、演技、音楽どれも素晴らしい
巨匠ディミトリ・ティオムキンの手になる主題歌は超有名で映画音楽の定番中の定番
それどころか、ブラザーフォア版は英語を離れてポップスの大ヒット曲だ

舞台は1936年のテキサス
しかし西部劇とは厳密にはいえない
西部劇でイメージされる保安官とカウボウイのガンファイトの物語とは全く違う
南北戦争よりも25年も前のテキサス独立戦争の際に実際にあった話の物語だ
どちらかと言えば戦争ものをイメージした方が近い
この戦いの30年近い昔欧州大陸で行われたナポレオン戦争のような戦闘シーンが大迫力で展開される
それも当然CGも特撮もなしで、エキストラの大量動員の力業で撮られているのだ

この戦いは日本人が桶狭間の合戦を一般常識としているように、アメリカ人なら誰しも知っている
そしてそれは単なる戦いではなく、アメリカの建国精神に直接関わる形で全滅して命を捧げた英雄達の物語として記憶されているのだ
主要登場人物のテキサス側の3人の指揮官の名前は国民的な英雄として、日本でいうなら幕末の英傑みに有名な人名になる
特にデイビー・クロケットは坂本龍馬並みの人気だろう
だから映画化も本作以前に3作もあるし、本作以降も映画化が何作も行われている程のものだ

それほどアメリカ人の精神の琴線に触れる物語なのだ
もちろんその筆頭がジョン・ウェインであったわけだ

ジョン・ウェインは主人公に自分の信条としてこう語らせる

共和国
実に良い響きだ
人々が自由に暮らし、自由に話し、自由に行き来し、売り買いし、酔ったり醒めたりする
君もこれらの言葉には感動するだろう
共和国
胸が詰まる言葉だ

正にアメリカ建国の精神であり
今日の文明世界の精神を代表するものだ
本作を製作した時代を考えれば、もちろんソ連との冷戦を意識したものだ
ナチスとの戦いの記憶もまだあたらしかったのだろう

では21世紀に本作を観る現代人にそのメッセージは届くのだろうか?
しかも日本人である我々の精神にも届くのだろうか?

その精神はフランシス・フクヤマの著者「歴史の終わり」にあるようにソ連に打ち勝ち、共産主義よりもこの自由主義が優れた思想であると決着がつき、思想史の歴史は終焉を迎えたのだ
だから21世紀に生きる我々日本人もその考えは当然の如く共有されている

しかし歴史には反動がつきものだ
日本の近くには共和国と名乗る国がいくつかあるが果たして、先ほどのような自由のある国なのだろうか?
独裁者や独裁政党が恣意的に認める範囲内に限りの但し書きが実はついており、その線を越えることは命の危険がある国というのが実態なのではないか

つまり本作は60年近い時間を経て、今またアメリカだけでなく世界中の自由に生きている国々にメッセージを発し始めているのだ
もちろん我々現代の日本人にもメッセージを発しているのだ

21世紀のアラモは台湾か沖縄だ
そう考えれば得心がいくのではないだろうか

あき240