劇場公開日 2002年9月28日

「なごり雪はあなたにも降る時があるのです」なごり雪 あるいは、五十歳の悲歌 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0なごり雪はあなたにも降る時があるのです

2022年2月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

冒頭このようなテロップがでます

いまから二十八年の昔、その唄は生まれた・・・
それから日本の激動の歳月を経て、
この唄を作った人も、唄った人も、愛し続けた多くの若い人も
今、等しく五十歳を迎えた

そして伊勢正三が独りギターを弾きこの唄を歌ってタイトルロールが始まります
時折、その歌唱シーンに緑豊かな美しい山間部を走る列車が挿入されます

なごり雪の唄は今、この汽車がむかう、古里の駅で作られた

そうまたテロップが短くでて本編が始まります

2022年の早春
今年は記録的な大雪で北海道や東北、北陸などの北国は大変な冬でした

ようやくその冬も終わろうとしています
でも、もしかしたらなごり雪が降ることがあるのかもしれません

なごり雪は、伊勢正三が作詞作曲したかぐや姫という彼の在籍していたグループの歌
1974年3月発売の「三階建の詩」というアルバムの収録曲でした
このアルバムからは「22歳の別れ」、「赤ちょうちん」の2曲がシングルカットされて、どちらも大ヒットしました
しかし、「なごり雪」はシングルでは発売されませんでした
その曲が21世紀に残るどころかもっと後世にまで歌い継がれる歌になったのは、イルカのカバーシングルが大ヒットしたからです
1975年11月の発売でした
なので、ほとんどの人は「なごり雪」を、イルカのバージョンでしか知りません

♪東京で見る雪はこれが最後ねと…
自分もある年に東京を離れる日に季節はずれの大雪になり新幹線の窓から真っ白な光景を眺めながらこの歌が脳裏で流れてセンチメンタルな気分になったものでした
もちろんイルカのバージョンです

本作は2002年の公開です
ちょうど公開から20年経ちました

本作での「なごり雪」は、あくまで伊勢正三のなごり雪です
本作のサウンドトラックの為に、伊勢正三自身が2002年にセルフカバーをしたものが使われています

本作公開当時みんな50歳だった人達は、みな等しく70歳を迎えました

本作は公開当時、中年から初老に差し掛かった団塊世代の人生を振り返る物語でした

思い残してきたこと、やり残してきたこと、どうしてそうしたのかとおもうこと
それは後悔の記憶、それも思いだすと痛みがある記憶
それがなごり雪なのでしょう

ふざけすぎた季節のあとで、なごり雪も降る時もあることを知るのです

2022年の早春
本作を観る団塊世代の人々はどのような感慨を持って本作を観るのでしょうか?
70歳、人生の終盤です
彼ら彼女達の人生の終盤にも、なごり雪は降るのでしょうか?

私たち団塊世代の下の世代はそれは想像するしかありません
しかし本作の彼らが50歳になってしたように私たちもまた人生を振り返るのです

私達の下の世代もまた、きっとこんな思いをする時がいつかくるのだろうと思います

なごり雪はあなたにも降る時があるのです

蛇足
本作は大分県臼杵市が舞台になっていますが
伊勢正三自身が、歌のモチーフは出身地の大分県津久見市の津久見駅だと語っています
臼杵駅から宮崎方面に1駅10分程度の駅です
もう少し地方都市らしい駅なので、あまり風情が無いのでロケには使われなかったのかもしれません

あき240