路傍の石(1964)

劇場公開日:

解説

山本有三の同名小説を家城巳代治が脚色「みんなわが子」の家城巳代治が監督した文芸もの撮影は「陸軍残虐物語」の仲沢半次郎。

1964年製作/97分/日本
配給:東映
劇場公開日:1964年6月14日

ストーリー

吾一は、卒業式の日、晴れの総代となって、優秀な成績で卒業した。中学へ行きたい、そして大学へもゆくのだ、吾一少年の学問に対する夢は大きくふくらんだ。しかし、酒のみで、働くことのない父をもった吾一の家庭では母のおれんの裁縫だけが唯一の収入であった。細々とためた中学進学の費用も、東京で一旗あげるという父のためにもちだされ、吾一は中学進学をあきらめた。呉服問屋伊勢屋から裁縫の内職をもらっていた母につれられて、吾一は、伊勢屋に奉公にいった。“商人向きの名前に”と五助と呼ばれるようになった吾一の前を、伊勢屋のできの悪かった秋太郎が、ピカピカの金ボタンを光せて、またおきぬは女学生姿で、学校に出かけた。見送る吾一の目にいつも光るものがあった。だが、小学校時代の受持ちだった次野先生の“自分の道は自分で切り開け”の言葉を励ましに、毎日を過した。中学へ行っても、勉強嫌いの秋太郎は、宿題を吾一に押しつけることが、しばしばあった。だが吾一は、英語だけはどうしようもなかった。向学心に燃える吾一は、おきぬから英語を習うと、仕事のすきをみて単語を憶えた。が、先輩の吉どん、幸どんはそんな吾一を快よく思わず秋太郎の部屋への出入りは止められた。やぶ入りの日、次野先生の家に遊びにいった吾一は同じような境遇の京造と、作次の語らいに、勇気づけられて、貿易商になることを誓った。作次が、胸を患って死んだ日、お葬式にゆくことを許してくれない、大番頭の忠助に、いままでの吾一の不満は爆発した。吾一は京造と作次の葬式にゆくと、東京へ行くことを決意したと語った。おれんも、吾一の決意をとめようとはしなかった。吾一は、希望をもって、東京へと旅立っていった。見送るおれんと京造の目も輝いていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

5.0抒情性とヒューマニズムが遺憾なく発揮された名編

2022年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

戦前、戦後で4回映画化された山本有三の「路傍の石」の最新作、といっても58年も前に池田秀一が吾一少年を演じた昭和39年公開の家城巳代治脚本・監督作品です。

勉強好きな愛川吾一少年(池田秀一)の中学進学の夢叶わず、呉服問屋・伊勢屋での厳しい奉公生活が続きますが、小学校の同級生で奉公先・伊勢屋の娘・おきぬ(萩原宣子=現・水原麻記)、京造(住田知仁=現・風間杜夫)、作次(吉田守)との触れ合い、担任・次野先生(中村賀津雄)の言葉を励みに頑張る吾一でした。ある日、親友のお葬式に行くことを許さない伊勢屋の大番頭忠助(織田政雄)に不満が爆発し、伊勢屋を飛び出します。次野先生を頼って東京へ行くことを決意する吾一。母(淡島千景)は「東京へお行き。自分の力でやってごらん」と強く吾一の背中を押します。不安と嬉しい気持ちが交錯する中、吾一は母と京造に見送られて、一人汽車に乗ります。

原作とは違い、初恋の相手、伊勢屋の娘・おきぬは吾一に優しく、母も病死せず、鉄橋にしがみつく場面もなく、吾一が東京行きの汽車に乗る原作の中盤までを描いています。社会派監督の名匠“家城巳代治”は、母と子の愛情を丁寧に描いて、抒情性とヒューマニズムが遺憾なく発揮された涙を誘う名編。何度も観ました。私の好きな作品です。

「路傍の石」の吾一役は池田秀一。昭和13年版「路傍の石」の片山明彦の名演(田坂具隆監督)が語り継がれていますが、当時、天才子役と言われた池田秀一も名演です。滑舌も良く、セリフが明瞭に聞き取れて爽やかでした。池田は下村湖人原作のNHKのテレビドラマ「次郎物語」(昭和39年)の主役も務めており、当時、リアルタイムで観ました。現在は「機動戦士ガンダム」など、声優界の重鎮として活躍されています。

吾一が自分の夢を話す初恋の相手、呉服問屋・伊勢屋の娘・おきぬ(萩原宣子=現・水原麻記)は子役時代の水原麻記、好演です。中村梅之助主演の連続テレビ時代劇「遠山の金さん捕物帳」で、金さんを慕うお光役が楽しかった。数学、国語は得意な吾一でも英語は解らず、吾一はおきぬから英語を習います。おきぬは東京に行く吾一との別れに、英和辞典を贈り、別れを惜しみます。
子役時代の風間杜夫(=住田知仁)も、吾一の親友・京造役で出演しています。

大番頭忠助役は名優・織田政雄。奉公人をネチネチといじめる演技が秀逸です。織田は昭和35年版の太田博之主演「路傍の石」(久松静児監督)にも伊勢屋の主人役で出演しています。

路傍(道ばたの意)の石にも似て、力強く、誇りをもって生きる少年の姿が心に沁みる物語。文部省特選、多くの他団体からも推薦を受けました。
お薦めの名編です。

<「路傍の石」映画化の軌跡>
昭和13年公開 日活 吾一役:片山明彦   監督:田坂具隆
昭和30年公開 松竹 吾一役:坂東亀三郎  監督:原研吉
昭和35年公開 東宝 吾一役:太田博之   監督:久松静児
昭和39年公開 東映 吾一役:池田秀一   監督:家城巳代治

「路傍の石」は未完の小説です。山本有三(原作)は昭和15年「路傍の石」掲載誌に「日一日と統制の強化されつつある今日の時代では、それをそのまま書こうとすると、これからの部分においては、不幸な事態をひき起こしやすいのです」と発表し、当時の時代背景の影響(検閲など)から「路傍の石」の断筆を決意、小説「路傍の石」は未完に終わっています。
映画鑑賞と共に、原作も読んでいただきたい。読みやすい文章で、国語の教科書(昭和の時代)にも載っていました。地元、印西市(千葉県)の図書館に蔵書が2冊(単行本と文庫本)あります。

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papatyan
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