本陣殺人事件

劇場公開日:

解説

横溝正史の同名推理小説の映画化で、地方の由緒正しい旧家で行った“密室殺人”を描いた推理映画。脚本・監督は「餓鬼草紙」の高林陽一、撮影は「子連れ狼 冥府魔道」の森田富士郎がそれぞれ担当。

1975年製作/106分/日本
配給:ATG
劇場公開日:1975年9月27日

ストーリー

三方を山に囲まれた小集落。広大な敷地を持つ一柳家はこの地方きっての旧家で、江戸時代からの宿場の本陣であった。あの恐しい事件があった当時、一柳家の邸内に住んでいたのは次の人々である。先代の未亡人の糸子刀自。長男の賢蔵。彼は京都の大学を出て講師を務めていたが、健康を害し郷里にひきこもった。近代哲学に関する著書もある賢蔵が、40歳まで独身だったのは、勉学のためだけではなく、彼の眼鏡にかなう女性がいなかったからだった。賢蔵のすぐ下の妹と弟は当時外地におり、その下には三男の三郎と次女の鈴子がいた。三郎は兄弟中の不作で、ひたすら探偵小説に熱中しており、鈴子は腺病質で、知能も遅れていたが、決して低能、白痴ではなく、殊に琴は名手だった。他に邸内には賢蔵の従兄弟の良介と妻の秋子が住んでいた。この平穏無事な生活を続けていた一柳家に波紋を投げかけたのが、賢蔵の結婚問題であった。賢蔵が選んだ相手は高校の教師をしていた久保克子で、彼女の父はかつて、一柳家の小作人で、若い頃アメリカに渡って成功し、その父の死後、克子は叔父・銀造に育てられたのだった。一柳家から見れば身分違いなのである。しかし、賢蔵は周囲の反対を押し切った。婚礼の日。四月も末だというのに雪が降り始めた。式はとどこおりなく済み、新郎・新婦は、母屋から庭一つ隔てた離れに寝んだ。午前4時15分、突然、克子の悲鳴が夜のしじまを破った。銀造たちが離れに行くと、克子が日本刀で斬られ、血まみれの賢蔵が傍に倒れていた。枕元には琴、金扉風には三本指の血痕、そして兇器の日本刀は、庭の石とうろうの根元に突き刺さっていた。離れには門も錠もかかっており、庭には雪の上に足跡一つ無かった……。この「本陣殺人事件」は磯川警部が担当することになった。警部は一昨日、一柳家を訪ねて村道を歩いていた三本指の男を犯人と断定した。そんな時、銀造の依頼を受けた私立探偵・金田一耕助がやって来た。彼はまず探偵小説マニアの三郎に興味を抱いた。そして、「密室殺人」は実は賢蔵が克子と無理心中し、琴糸を巧みに利用して兇器の日本刀を外に出したことを証明してみせた。そしてこのトリックには三郎も加担していたのだった。この心中の賢蔵の動機は、克子が結婚前夜に、かつてある男と関係したことを告白、潔癖症の賢蔵は、克子を許すことができなかったが、と言って周囲の反対を押し切っての結婚なので離婚もできず、思いあまって、誰かに殺害されたと思わせるためのトリックだったのだ……。

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映画レビュー

3.5妖琴の旋律

2022年12月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

興奮

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共感した! 3件)
しゅうへい

5.0正に本作はプレ「犬神家の一族」だったのです

2021年12月12日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

傑作です!
高林陽一監督の腕前は全く持って見事です

1970年代以降の横溝正史原作の映画ブームの原点は本作です
すべては本作から始まったのです

単にその最初の作品というだけの意味ではありません
本作が素晴らしい傑作であったからこそ、本作に続いて横溝正史原作映画が次々に作られていったのです

そして、その後の横溝正史原作映画の殆どが本作を製作の基準にしていることが一目でわかるでしょう

本作は、時代設定を原作の戦前の昭和12年から、1970年代の現代に変更しています

これはもちろん衣装や小道具、美術など時代考証を考えなくて済みますから製作費を下げる事が目的であったと思います

しかし、それが思わぬ効果をもたらしています
何十年も前の戦前ならいざ知らず、家柄だとか、世間体だとかの古い因襲が地方の田舎町ではいつまでも残されて、現代でも未だに存在している
そのことが、都会からやって来る現代のジーンズ姿の若者との対比によって、より鮮やかに浮き彫りになる効果があったのです

そしてその因襲に突き動かされて犯される殺人の愚かさもまた際立つのです

1977年の「八つ墓村」、1981年の「悪霊島」も時代設定を現代に変更しているのは、この効果を取り入れようとしており、明らかに本作の影響です

それは現代でなくとも、戦後すぐの設定であっても、戦前の古い時代が戦争を越えてもなお生き残っているという効果は変わらず発揮されうるのです

本陣の古い宏壮な屋敷、紅殻色の壁、黒光りする太い柱、障子の規則的な格子、金屏風

江戸時代からそのままの姿を留めて登場します

それらにこそ、そこに暮らす人々を現代の今もなお因襲に縛り付けているなにかが宿っているからなのです

これらの大昔から全く変わらぬ姿がスクリーンに写しだされた時、時代設定を現代に代えようとも、そこに住まい暮らす人々の精神はいささかも変わってはいないことを、観客は一目で理解できるのです

ここを押さえないと横溝正史ものの映画は成立しないことを高林陽一監督は見抜いてたのです
これこそが横溝正史原作映画の最も大事な肝であると

そして、横溝正史ものの特徴である、凝った殺人トリックをビジュアルに再現することがハイライトになることも

それが実に映画映えするシーンになるということもまた、監督は本作で鮮やかに例示しています

市川崑監督の「犬神家の一族」は、本作を出発点として製作されたのだとひしひしと感じます

本作の全体の雰囲気を踏襲しつつ、余りに暗すぎる映画になるのをどう解決するか?

それが市川崑監督の「犬神家の一族」の製作方針だったのだと思われます

それゆえに金田一耕助は、より軟弱に、より女性受けする優しいキャラクターに変更されたのです
単調な印象になる捜査過程を、警察の捜査官をコミカルなキャラクターに変更することで解決したのも、本作を土台に構想したからだと思います

もちろん犬神家の屋敷、村や街の光景の再現に力を入れてセットを組んだり、ロケ地を探したのも本作から学んだから故と思うのです

配役も演技も演出もみな素晴らしい
撮影と照明の美しさは特筆ものです
市川崑監督もこの美しさを上回らないとならないプレッシャーを感じたと思います

正に本作はプレ「犬神家の一族」だったのです

そして、本作を土台にすればものすごい映画が撮れる!
そう角川春樹社長は天啓を得たに違いありません

映画がヒットすれば、原作の文庫本も売れる
文庫本が売れれば映画がより入る
ならば自ら映画の製作者になればよいではないか

角川映画の始まりも、本作の素晴らしい出来映えがあったからだといえると思います

音楽に大林宣彦のクレジットが見えます
琴の音などの音が、本作の超重要ポイントになることを見越して高林監督が召集したのだと思われます
この眼力もまたさすがです

高林陽一監督の実力、恐るべしです

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あき240

3.5名探偵誕生!

2021年3月9日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

興奮

原作は横溝正史戦後最初の長編小説で、念願の本格探偵推理小説。
金田一にとっても探偵デビューとなった事件。

U-NEXTで篠田監督の『悪霊島』を見付けた時、続けて本作も発見。
思わず、ワォ!…と声が漏れてしまった。
と言うのも、本作、存在は知っていたものの、一度も見た事が無かった。
権利上の問題で長らくソフト化されなかった“幻の作品”の『悪霊島』だが、個人的にはこちらの方こそ“幻の作品”!
だから、併せて続けて見ちゃったね。

金田一最初の事件なだけあって、話も有名。
岡山県の旧本陣の末裔である一柳家で、当主・賢蔵と女学校教師・久保克子の婚礼が慎ましく開かれた。
静まり返ったその夜、鳴り響く琴の音。水車の音。庭に突き刺さった日本刀。
新郎新婦の離れに駆け付けると、二人は無惨な死体となって発見される。
現場に残された血染めの三本指。離れの周囲は雪で覆われ、足跡も無く、戸締まりもされていた。
克子の叔父、銀造は旧知の金田一を呼び、密室殺人事件に挑む…!

公開された1975年は角川金田一の前年で、ブーム直前。
一年早く、ブームに入れなかった感あるが、作品の方はなかなか良く出来ている。
原作にもほぼ忠実。
そもそも『本陣殺人事件』は話も構成もトリックも登場人物の位置付けや犯人の動機もしっかりしており、少しでも崩したら成り立たないので崩しようがないのだけれど。
スタッフの仕事ぶりが見事。
念願の映画化だったという高林陽一監督は独特の演出で横溝ミステリー世界を醸し出す。
こちらも名カメラマン・森田富士郎の映像センス、大ベテラン・西岡善信による美術。
音楽は大林宣彦! 名曲というよりかは、作品に合った印象的な音楽になっている。
また、『本陣殺人事件』は“音”も重要ポイントなので、それらにも注目…いや、“注音”。

“犬神家”ならぬ“一柳家の一族”。
恐ろしく、呪われ、そして哀しい旧家の話でもある。
とりわけこの3人。
長男、賢蔵。一族の君臨者で、完璧主義者、厳格者。演じた田村高廣にはもうちょっと威圧感出して欲しかった気もするが、原作や他の映像作品とは違う愛憎入り交じりの巧演。
次男、三郎。何処かひねくれた性格を、新田章が表している。
末の妹の鈴子。琴弾きは上手いが、知恵遅れ。時々奇妙な言動を繰り返すが、実は重要な証言。
無垢な少女である鈴子だが、高沢順子が演じた鈴子は何だか怪奇な雰囲気纏う。しかしそれがまた、刹那的でもあり、儚くもあり…。

多少厳しい意見も。
まず、舞台が戦前から現代(70年代)に。言われないと気付かないが、言われると、犯人の動機など時代感覚にズレが。
そして、最大の賛否が本作の金田一。
演じるは、中尾彬。ちなみに、『悪霊島』では殺され役だったね。
まあそれはいいとして、そのスタイル。
何と! ヒッピー風のジーンズ姿。
これが金田一…?
厳しい意見や叩いてる声も多いようだが、自分的にはそれらの声に否!
中尾彬の好演、親しみ易さは、原作の金田一像から決して逸脱していない。
横溝正史は中尾金田一を気に入ったそうな。
同意!中尾ジーンズ金田一に好感!

個人的金田一映画のBESTを順にすると…
『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』、野村版『八つ墓村』、その次に来てもいいくらい。

『本陣殺人事件』はTVドラマ版でも良作多い。
TVドラマ版では、古谷金田一の“横溝正史シリーズ”と“金田一耕助シリーズ”共に好き。
また、漫画家JETにより漫画化もされており(シリーズ化されていてインパクトある画!)、特にラストシーンがいい。
事件を解決し、帰りの電車の中で、金田一は恐る恐る銀造に言う。
「あの、僕、探偵になろうと思うんです…」
すると銀造は金田一の肩をポンと叩き、
「名探偵誕生だ」

レビュータイトルはこの台詞をお借りした。

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近大

3.0.

2019年4月29日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

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瀬雨伊府 琴
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