鉄拳

劇場公開日:

解説

高知県を舞台にボクシングに賭ける中年男と事故で負傷したボクサーの復活していく姿を描く。脚本・監督は「どついたるねん」の阪本順治。撮影は「バタアシ金魚」の笠松則通がそれぞれ担当。

1990年製作/128分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1990年11月23日

ストーリー

代々の林業を営む誠次は家業を専務の筒井に任せっきりで、ボクシングジムのオーナーをやっていた。ある日、ふとしたことから少年院上がりの明夫と知り合った誠次は、彼のボクサーとしての素質を見つける。恋人の君子に見守られながら明夫は破竹の快進撃を見せるが、有頂天気味の明夫は交通事故を起こしてしまい、ボクサーの命である右拳を負傷してしまう。明夫は行方不明となり、誠次もすべてを失ってしまい無気力な日々を送る。だが、偶然義手をつけた和紙職人・滝浦と出会った誠次は彼を見て明夫の復活の予兆を感じる。そして誠次は明夫と再会し、滝浦の義手を作った池田医師によって、彼の右手は生まれ変わるのだった。こうして“鉄拳”をもった明夫は誠次や君子やトレーナー・長井にささえられながらリハビリとトレーニングに集中する。だがそんな時、滝浦が身体障害者に異常な冷酷さを見せる平岡を中心とする謎の集団に襲われ、誠次の目前で殺されてしまう。怒りに燃える誠次は滝浦の復讐をとげるため単身で平岡達のところへ殴り込みに行く。それは明夫の復帰戦当日のことだった。平岡と激突する誠次、しかし人数的にも誠次には不利な戦いだった。そんな危うい時、明夫が試合をすっぽかして駆けつけてきた。そして二人は死斗の末、平岡を倒すのだった。

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映画レビュー

3.5早すぎた「バキ」

2023年10月10日
iPhoneアプリから投稿

本作を観ながら俺は常に板垣恵介のバキシリーズのことを思い浮かべていた。まあ、たぶん影響を受けてるんだろうな、と思って公開日を調べてみれば1990年。これはバキシリーズの第1作『グラップラー刃牙』が週刊少年チャンピオンに連載される1年前である。

マジか。

本作のバキ要素を挙げれば枚挙に暇がない。

・強さへの飽くなき探究心
→言わずもがな

・身体の物理的改造をも厭わない倫理観
→事故でグチャグチャに潰れた右拳を、マサチューセッツ工科大卒の獣医にサイボーグ化してもらう

・シュールな修行風景
→森の中に特設されるボクシングリングとリハビリ施設

・誇張的な比喩描写
→近づいてくる月、殴られた瞬間に頭を横切る地球のイメージ等

・唐突に逸脱する物語
→初めこそ中本にも後藤にも「タイトル奪取」という大義名分があったはずなのに、中盤以降は戦うことそのもの、そしてその結果として得られる強さそのものが目的化していく

後進の育成に努めつつもついつい闘争心を剥き出しにしてしまう中本は愚地独歩のようであるし、サイボーグと化して再び戦場に舞い戻った後藤はピクル戦後の愚地克巳や烈海王、あるいはジャックハンマーを想起させる。とはいえ後藤は彼らほどには戦意に満ちていないのだが、生来の粗暴さを加味すれば最強トーナメント戦で準々決勝くらいにまでは駒を進めてきそうだ。

男たちの闘争に巻き込まれつつも妙な存在感を放ち続ける田村は範馬刃牙のガールフレンドこと松本梢江を彷彿とさせる。特に、終盤で中本の代わりにグローブを嵌めてリングに立った際の彼女はさながら第3作『範馬刃牙』「地上最強の親子喧嘩編」において範馬刃牙と範馬勇次郎の間に臆面もなく割って入った梢江の勇姿とオーバーラップする。

ボクシング公式タイトルへの挑戦を放り出して身内の敵討ちに加勢してしまうという物語の急旋回ぶりもいかにもバキらしい。中本と平岡の殴り合いもすごい。お互いに唸り合ってみたり自分の顔をぶん殴ってみたり、バキ美学としか形容できない描写が矢継ぎ早に展開される。

ただ、繰り返すようだが、本作はバキシリーズより1年も前に公開されている。板垣恵介が本作を知っているのかは定かではないが、まあ、十中八九観ていたんじゃないか。後藤を演じてるのはプロボクサーの大和武士なわけだし、それに阪本順治は『どついたるねん』でも「浪速のロッキー」こと赤井英和本人を起用している。

思えば阪本順治の作風はもともとバキっぽいというか、その場その場で生起した物語やショットの推進力を非常に重んじる傾向にあるように思う。さればこそ現実世界の条理を無視した描写が多い。『王手』で死者と数日間にも及ぶ大局将棋を打つシークエンスなどがその好例だ。

ただ、「バキっぽい」という先入観を完全に排除した場合、本作が単に一貫性のない不出来な暴力映画でしかないこともまた否定し難い。でもそうした歪さにもかかわらず瞬間の面白さの連続だけで最後まで観れてしまうあたり、やっぱりバキなんだよなあ。

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