劇場公開日 1996年11月9日

「逃走の果てには…」弾丸ランナー 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0逃走の果てには…

2022年2月12日
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うだつの上がらない人生を打破したいとかミュージシャンとして大成したいとか裸一貫の任侠道を貫き通したいとかいった剥き出しの執着をガソリンに、肉体というマシンを駆動させる。3人の男たちは走る、走る、ひたすら走る。そのうちなぜ走っているのかもわからなくなってきて、走ることそれ自体が目的になっていく。

走ったからといってどうにかなるわけじゃないんだけど、それでも確かに何かが変わった気がする。思えば3人の登場人物たちの悩みは「走る」という自己との向き合いの外側にあるものごとへの執着だった。そして3人は「走る」ことによってその執着から脱却していく。

逃走の果てにヤクザ集団Aとヤクザ集団Bとマル暴刑事の三つ巴の戦いの渦中に突っ込んだ彼らは、もはやいかなる政治的・経済的・マッチョ的要因にも関心を示さなくなっていた。

あらゆる執着から脱却した3人だったが、その表情は死者のような虚無を湛えていた。この世界は多かれ少なかれ人々の身勝手な執着によって回っているのだから、その論理から外れた者たちは必然的に「死」へと向かうしかないのだろう。

監督のデビュー作ということもあってか、表現・技法のアラがやや目についた。バイトのいじめとかシャブ中の視界の表現とかはありふれすぎててそこにうまく個人を感じることができなかったし、妄想の中で3人がそれぞれ1人の女を犯すシーンも長ったらしくて笑おうにも笑えなかった。

因果