「【孤独、夢、破壊、現実…カノン、反復記号】」REVIVAL OF EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH(TRUE)2/Air/まごころを、君に ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【孤独、夢、破壊、現実…カノン、反復記号】

2021年1月17日
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「劇場版DEATH(TRUE2)/Air/まごころを、君に」は、リリスやアダム、使徒と人間、そして、綾波レイ、碇ユイと、エヴァンゲリオン初号機の関係をよく伝えている他、新劇場版では語られなくなったのか、変更されたのか、ミサトやリツコの生い立ちなども語られ、今では懐かしさも感じられる。

90年代、新世紀エヴァンゲリオンが製作された時、日本も世界も、思いもよらない岐路に立たされることになった。

米ソ冷戦が終結し、平和な時代が訪れると期待していたが、日本ではバブルがはじけ、阪神淡路大震災、オウムの地下鉄テロ、90年代後半には新興国を通貨危機が襲い、日本の大手金融機関の破綻、世界の知識を集結したような世界最大のヘッジファンドも例外ではなく、この世界から消えた。

そんな不安の中、ミレニアムを迎える終末思想に憧れを抱く若者が多くいて、エヴァンゲリオンを支持していたとしても不思議ではなかった。

新世紀エヴァンゲリオンは、この「劇場版DEATH(TRUE2)/Air/まごころを、君に」も含めて、そんな時代の空気をよく伝えているように思うのだ。

多くの人が最も恐れるのは何だろうか。

もしかしたら、孤独はその最たるものではないのか。

時代の変化の荒波に飲み込まれ、自分の努力で何かを成し遂げられるような状況では、もはや無くなってしまっていた。

人々に手を差し伸べるような余裕などなく、自分のことで手がいっぱいで、実は皆、孤独に苛まれていたのではないのか。

シンジが子供の頃、ひとりぼっちで、砂場でピラミッドのような山を築き、自ら破壊する。

僕も、子供の頃、ブロックや積み木で街を作り、自分が怪獣になって、街を破壊するという遊びを、たった一人で繰り返しやっていたことを思い出す。

エヴァンゲリオンの物語は、当初は、旧約聖書の人間の創造と、善悪二元論を組み合わせたようなストーリーだった。

だが、そんな二元論で語れるほど、僕達の世界は簡単ではなかった。

米ソ冷戦が終結しても、米国一強の時代は幻想のように終わり、2001年3月11日、アルカイダの操縦する航空機がニューヨークの世界貿易センタービルに突っ込んだ。

世界は混沌とした時代に突入した。

これが現実なのだ。

「僕の現実は何か?」と、シンジがレイに問う。
レイは「夢の終わりよ」と告げる。

人間の儚い平和の夢は醒め、そして、いくつかの地域での紛争、大小のテロリズム、中国など新たな大国が台頭する時代に入り、世界は混沌とした色彩をさらに強めていく。

この「劇場版DEATH(TRUE2)/Air/まごころを、君に」の物語は、人間が最終兵器となるエヴァンゲリオンを手にして、最後は、使徒とではなく、人間同士で争うという、新しい世紀の世界の惨状を予想してたかのような内容だった。

そして、環境破壊、人間活動の自然の侵食によって現れたコロナウイルス、温暖化による激しい気候変動。

考えてみたら、神は、地上に増えすぎた人間の堕落を嫌い、ノアの方舟を用意し、洪水を起こした。

僕達の世界の洪水のような惨禍は始まったばかりなのかもしれない。

繰り返しになるが、
米ソが争って、仲間となる国を増やそうとしていた時代、西東に分かれて相互が対峙していた。
ソ連が敗れたが、理想的な自由主義が生まれたのではなく、人々の願いとは裏腹に、アニマルスピリットの自由資本主義が広がり、人々の心は荒び、搾取が当たり前の人間同士が富を求めて争い、怨恨は攻撃の大きな動機付けとなった。

やはり、「劇場版DEATH(TRUE2)/Air/まごころを、君に」が啓示していたかのようだ。

そして、この啓示のような物語は、2000年代に入り、新劇場版の異なる物語に発展した。

日本の伝統芸能の重要な様式美を伝える「序破急」を思わせる「序破Q」と続いたシリーズ。

TVのシリーズと「劇場版DEATH(TRUE2)/Air/まごころを、君に」では、西洋音楽の弦楽パッヘルベルのカノンが印象的だ。

パッヘルベルのカノンは、もともとはもっと速いテンポだったと聞いたことがあるが、旧劇場版にあった物語の中での切迫感や苛立ちに似た感覚は、それだったのだろうか。

確かに、新劇場版は、戦いや展開に追い立てられるような切迫感はなく、幕間で区切られた、それぞれ異なる物語の連作のようだ。

しかし、コロナ禍による二度目の緊急事態宣言で上映が延期になったエヴァンゲリオンのタイトルの末尾には西洋楽譜の反復記号が付記され、非常に興味を掻き立てられる。

何度学んでも、人は繰り返すのだと言うのだろうか、それとも、人は繰り返し繰り返し、未来永劫考え続けなければならないと言うのだろうか。

世界は更に混沌とした時代に入っていく。

ワンコ