劇場公開日 1972年5月25日

忍ぶ川のレビュー・感想・評価

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5.0私小説文学映画の最良のひとつ

2020年2月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

文学映画は数あれど、本作は私小説文学を映画にするならばこうなるという最良の作品のひとつと思います

忍ぶ川とは、夕焼けだんだんを下りて行った先にある谷中辺りにあると思われる小料理屋
学生にはちょっと高めで、少し身なりの良い大人が大人しく酒を飲むお店の名前
主人公は訳あって27歳の大学生、ヒロインはそのお店の住み込み女中の娘
それを加藤剛34歳と栗原小巻27歳が演じます
物語はそれぞれあまり人に言えぬ生い立ちがある男女が惹かれあい結ばれるという純愛ものです
事件というようなものはありません
けれども見終わった後は、清らかな愛に汚れきった自分まで清らかになったように思えます

1972年作品なのに白黒作品です
あえて白黒で撮っているのです
まるで1950年代に撮影されたかのように徹底的に演出をしています
違うのは海鳥の乱舞シーンと初夜の美しいラブシーンだけです
それだけは70年代の感覚で効果的に演出されています

加藤剛と栗原小巻の声だけはまるでラジオドラマのように録音されています
主人公は私小説らしくモノローグが多く、台詞であってもモノローグのようで、会話するヒロインの声もまた主人公に聞こえた声として録音されているのです

栗原小巻は主人公からどのように美しく見えたのかの視点で撮られています

序盤の深川デートのシーンは、1956年公開の川島雄三監督作品の洲崎パラダイス赤信号を観ておくとより一層楽しめます
本作の舞台もこの年代であるのだと思われます

忍んで、忍んで生きてきたヒロインは、自分の家が出来た喜びを終盤で現します

現代の女性は自由に生きているようで、やっぱりヒロインのように忍んで生きているのかもしれません
自分の全てをさらけ出せる男性を待っているのは変わらないのかも知れません

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あき240